「・・・で、なんなんスか?この「みんなの大疑問解決!今をときめくアイドルで1番家庭的なのは誰だ!?グランプリ」ていうのは?番組っスか?」

「そう、これもまたシンのサザンクロスプロモーションがプロモーターらしんだけど・・・でも、地上波でスペシャル生放送な上にゴールデンタイムにライブ予定だから、うちの社長が受けろって・・」

「また面倒っぽい企画の番組に・・・リハクさんももうちょっと嬢ちゃんらの負担ってモンを考えてやりゃあいいものを・・しかも日程が来週の日曜?えらく急だなぁ〜・・・」

「まあでも、その社長の姿勢でPCAがここまで来れたってところも勿論あるからね。邪険にはできないわよ」

「しっかし・・・家庭的なのは誰だ!?・・って、あまりにも漠然としすぎっしょ?何をどうもって家庭的とすんだよ?」


スタジオPCAスタッフルーム。
レッスンが終わったPCA21のメンバー達を送り出した後、帰宅前のほんの一時、軽く酒を交わしながら難波伐斗と藤田麻美耶、そして松風玲奈と戸田紅羅、木村朔夜の4人が談話をしていた。
付近の居酒屋で飲んで仕事や最近のプリキュアの女の子たちの活動、成果についてあれこれ語り合うのもいいが、このスタジオで仕事が終わった後の時間を、帰宅の前、ゆったりとこうして過ごすのも悪くない。
明日は土日で久しぶりにみんな休み。
バットも休日をのんびり過ごそうと考えているが、そんなコトよりも今彼の関心は、今日社長の青野李白からマネージャー先生方に通達が来た新しい仕事の内容についてのプリントだった。

古川真のサザンクロスプロモーション主催するバラエティー番組、「みんなの大疑問解決!今をときめくアイドルで1番家庭的なのは誰だ!?グランプリ」という長くて安易なネーミングの新しい生放送プログラム。
それにPCAのメンバーを選抜して参戦させようというのだ。
新しい試みで、確かに今まで聞いたことの無い企画なのは新鮮味があっていいのかもしれないが、あの今までPCA21の面々と(というか大体ケンシロウ)達と度々モメ事を起こしているあのシンがプロダクションしていると聞くと、バットには一抹の不安があるのだ。


(大丈夫なのかぁ?まぁたやっかいゴトに巻き込まれなきゃいいんだが・・・)


「でもバットくんの言うとおりですよセンパイ。家庭的・・・って難しいですね、一体何がどう家庭的なのか・・・」

「そうねぇ〜、家庭的って言われてもねぇ・・・どういう事かしら?」

と、レイナとマミヤの悩みに、ビールをくいっとあおってからベラが一言ぴしゃりと言ってのけた。

「甲斐性がある・・と、そういう意味じゃないのか?」

「甲斐性・・・ねェ・・・」

「とにかく、月曜日にでもまた集まった時に、あのコ達にも聞いてみよう。誰か適任なコがいるかもしれない」








「ん〜〜・・っていってもなぁ〜、あのコ達イイコ達なんだろうけど、家庭的って言葉とはちょっと違うコたちばかりなカンジがするしなぁ・・・」


家に戻ったバット、窓を開けて一服しながら、つい先ほどスタジオでマミヤたちと話していた番組の企画内容を振り返る。
あらためて感じる新しい企画の難しさ。
番組に出る以上はある程度の注目、そして結果を残して上げられればと彼も思っている。
芸能界は水物である。何か特徴のある芸やアクションで一躍時の人となっても、その一発であとは鳴かず飛ばずというコトもままある世界。
まして彼女達は今や人気も徐々に上がって来てはいたが、それと同じくらい批判の声も高い。
時折見せる少女ゆえの未熟な所作が、オタクどもに祭り上げられただけのもの知らずの小娘ども、と彼女達に辛い評価を下すアンチの数もかなりのものなのだ。
生放送でポカをうってしまえばそれこそそういったアンチどもの恰好のネタである。

今回の企画、「家庭的」なアイドルとは?
家庭的とは元来女子に求められる必要不可欠なステータスである。時がうつろいでもその一定の見方は不変。
失敗はさせたくない。
だが、真面目なプリキュアメンバーをバットが頭の中で何人か上げてみても彼女達が家庭的かどうかは懐疑的と言わざるを得ない。

全体のサブリーダーと言われる雪城ほのか。
落ち着きと知的さはメンバー内でも随一だが、彼女はどうにも学者肌で求められてもいないのに余計な蘊蓄(うんちく)を垂れ流すことがしばしば、面倒臭いという風に見られる眼もあるだろう。
同じ雰囲気のチームファイブGOGO!の水無月かれんは、お金持ちのお嬢さまゆえの世間ズレがかなりある。
一見完璧に見えるチームハートキャッチの元全体メンバーのリーダー、月影ゆりも、実は家事はあまり得意ではないらしいし、ともすれば誰が適任なのか?バットは考えに窮してしまった。


「まァ、ベラさんの言う通り、あのコたちに聞いてみるのがイチバン早い・・かあ・・・」

「何を悩んでいる?バット」

と、そんな悩める彼にかけられた一言。
声の主を一瞥して、バットは冷ややかに言う。

「いや、いい。お前にはカンケー無い事だし。気にするな」

「いや、ともに同じ屋根の下に生きる者として悩みをともに理解し合うことは我らの務め。さあ、何か話してみなさい」

「いや、ホントにいいから。そもそも同じ屋根の下に勝手に転がりこんでるのはアンタらっしょ?」

「ぐわははははっ!つまらぬことで悩むとは惰弱にして浅はかな奴よ!よし!この拳王が自らこの知恵を貸してやるとしよう!そして得た成果、我が覇道ために捧げるがよいわ!」

「いやマジでいらねえから、アンタの知恵とか特に。大体何の覇道かわかんねえケド、アンタの覇道とやらに生かせるもんなんて転がってねえから」


「そんなコト言わずにさあ、バットよ。我ら義にて結ばれし朋友ではないか!」
「うぬはこの拳王が慈悲を断ると言うかあっ!?身の程を弁えぬその暴挙、今なら許してやる。さあ、言ってみろ!」
「さあ、バット!お前はもう・・・しゃべりたくて仕方が無くなっている!」


「さあ!」
「さあ!」
「さあぁっ!」






                       プツっ





「〜〜〜っっうるっっせえぇんだよテメエらあぁーーーっ!?いい加減黙らねえと明日っからメシ抜きにすんぞわかってんのかコラアァーーーッッ!!」


『・・・・ゴメンねバット・・・』


明日のコトで色々と頭を悩ませている最中だと言うのに、周りでゴチャゴチャと意味不明に騒ぎ立てる北斗三兄弟、たまりかねてブチ切れたバットは、生き死ににかかわる食事の駆け引きを用いて三兄弟を黙らせた。

ロクに収入も無く、明日喰う米にも窮しているケンシロウ、トキ、ラオウの北斗神拳、霞三兄弟には効果抜群だったらしく、特に反論もできずに沈黙せざるを得なかった。

(ったく!人があのコ達のコトで真剣に考えてる時にコイツラときたら・・・だが、確かにオレ1人であーだこーだ考えてても仕方ねぇか。う〜〜ん・・あ、そだ)











「家庭的なのは・・・誰だグランプリ?へぇ〜・・そんなのに出るの?ウチから?」

「そうなんだよぉ、で、なんか適任なコいないかなぁ〜?って・・・」

「でも家庭的って言われてもなぁ〜」
「そうねぇ、ちょっとそれだけじゃハッキリしないわよねぇ・・・家事だけでも掃除洗濯炊事・・それにあと色々なコトが関係してきそうだし・・・」

「はぁ〜・・・なっちゃんやほのちゃんに聞いてもダメかぁ〜・・・ココさんとナッツさんも誰か適当なコいないんスかぁ〜?」

「そうだなぁ〜・・・あらためて聞かれると難しいなぁ・・ナッツはどうだ?」

「さて・・そこまで器用なコがウチにいたかな?」


次の日、秋葉原からバスで2駅ほどの所にある元四ツ葉町商店街、今のクローバータウンストリート。
そこにある大きな合同公園で、バットはPCA21メンバーである美墨なぎさと、雪城ほのかを前に、落胆のタメ息をついた。
今日はみんなお休みなのだが、その新しいバラエティー番組の企画のコトが気になったバットは、なぎさとほのか、そして同じくスタッフで、プリキュアの妖精メンバーでもあるココとナッツにだけメールを送っておいたのだ。
この公園はPCA21の憩いの場でもある。
振付師の橘薫先生が、ドーナツショップを経営している場でもあるからだ。
休日ともなるとそのおかげもあって人でごった返すこともあるのだが、テキパキと手際のいい薫先生のこと、プリキュアたちのプライベートポジションをちゃんと準備してくれているのだ。

その場所に相談したいことがあるので、来てくれませんか?とドーナツとジュース奢りますよとのおまけをつけて。

ちょうど2人でショッピングに出かける予定だったなぎさとほのかは、そのついでがてらバットの依頼を聞いてみることにした。で、今に至っている。
その様子に、彼女達にドリンクを持ってきた同じスタッフのココとナッツも考え込んでしまう。

チーム全体のリーダーともいえるこの初期メンバー2人に聞けば、何かいい意見が聞けるのではないか?適任の娘が見つかるのではないか?そう考えたのである。
しかし、バットの意図に反して、なぎさもほのかも、そしてココとナッツも、やはり条件が漠然としているためか同じく悩んでしまっていた。
いったいプリキュアメンバーの中に家庭的といえるピッタリな女の子なんているのだろうか?
これは難しい。唯一パッと思いついたのは・・・


「こんな時奏さんがいればねぇ〜・・・」
「そぉうなんだよなぁ〜・・・オレも奏ちゃんはピーンと思いついたんだよ。でもなぁ・・・」
「そうだよねぇ〜、奏って確かアレにいってるでしょ?初めての舞台練習。今度いつきと共演するからって・・」


そうなのだ。
料理も得意で、掃除洗濯もこなせ、さらに小さい頃からパパとママのお手伝いで弟の面倒まで見ているチーム・スイートの南野奏。
彼女こそは家庭的少女と言えるに相応しいPCAきっての人材だった。
しかしその彼女はタイミングの悪いコトに来月に初めての舞台出演が決まってしまっており、現在そちらのレッスンの方で手が回らない。
毎日共演する明堂院いつきとともに厳しい特訓に明け暮れていた。とてもバラエティー番組の撮りなど余裕はないだろう。
奏がダメなら誰がいるのだろう?バットたちが途方に暮れていたその時だった。





「あ〜〜っなっちゃん先輩とほのちゃん先輩がいるぅ〜っ!」
「バットさんもいるぅ〜!こんにちワン!ねえねえなに話してんのぉ?」

そこへ意外な来訪者たちがドヤドヤと場の空気も読まずに参入してきた。

「!?・・あれ?キミたちなんで?」

唐突のコトにバットは驚きの声を上げる。
現れたのはPCA21のメンバー達、夢原のぞみと彼女と仲良しの桃園ラブ、さらには九条ひかり、美翔舞や、他には東せつな、春日野うらら、北条響、調辺アコ、来海えりか、花咲つぼみがいた。
皆今日はお休みで久々に遊びた〜い、というコがてっきり多くいるハズなのになぜいつものメンバーがそろっているのか?
と思ったら、皆大好物の橘薫先生特製、カオルちゃん元気回復100%バニラシェイクとドーナツを頬張っている。
さらにぶら下げているのは、九条ひかりの家がやってる店、「TAKO・CAFE」(タコ・カフェ)特製のタコ焼きではないか?


「今日ねえ、あたしとぉのぞみちゃんとうららちゃんと、えりかと、響ちゃんで、一緒にあそぼ♪って約束してたのぉ♪んで、加音町(かのんちょう)の方でカラオケ行って、帰りにウチの近所にある小物屋さんで買い物してたらぁ〜・・」
「ぐぅ〜ぜんだったんだよねぇ〜!せつなとつぼみとアコちゃんもソコに買い物に来ててぇ、さらにさらにぃ、ひかりちゃんとまいティーがタコカフェのおつかいの帰り道だったんだよねぇ〜♪」
「そ!そ!んでぇ、買い出しアタシたちも手伝って、TAKO・CAFEに寄ったらアカネさんがおまけにくれたんだよねぇ〜みんなに♪で、ひかりちゃんと舞ちゃんもそこでガッタイしてえ、カオルちゃんのお店でドーナツ買ったのぉ!ちなみにコレはぜぇ〜んぶアタシの奢り!えへへvパパからお小遣いたくさんもらったからねぇ〜vみんなで楽しみなさいってv」
「ほぉ〜んと!響ちゃんのパパって優しいよねぇ〜v」



チームのある意味危機なのにも関わらず、能天気な彼女らにバットは「ああ、さいですか・・・」とだけ漏らしてハア・・とタメ息をつく。


「いいねえキミら・・・なんの悩みもなさそうで・・・」

「ほえ?なんのコト?悩み?」
「あったら困っちゃうよぉ〜、悩みが無いってイイコトなんだよvなに?バットさん悩みあんの?」
「なになに?なんのハナシ?」
「アタシ達にもきかせろっつーの♪」


のぞみ、ラブに加わって響やえりかも何やら沈痛そうな面持ちのバットに近寄って好きなことを言う。
バットが何でもないと言おうとした時、


                     「やっと見つけたぁ!」


と、そんな少々怒ったような声が聞こえた。
向こうにいたのは赤みがかった跳ね気味のウイングをあしらったショートヘアが特徴の少女だった。

「あ!りんちゃんだあ、メール送っといてよかったvおーい、りんちゃんコッチコッチぃ♪」

のぞみが少女に手を振って声をかける。
すると、彼女は不満気に頬を膨らませ、イラついたように大股でズンズンと中に入って来るとのぞみに厳しい口調で言った。

「もうのぞみ!いい加減にしなさいっ!」

「ほえ?りんちゃんなぁ〜に?な、なんでおこってんの?」

「なんで?じゃないわよまったく!ハイ、コレ!」

「あ!アタシのレッスン用のシャツ・・・」

「アンタまた出しっぱなしだったわよ!昨日アタシが拾ってあげなきゃまたレッスン着無しで先生に怒られてるところよ、洗濯までしたんだから!」

「ご・・ゴメン、アリガト・・・うぅ・・りんちゃんカオコワいよぉ〜・・」

「コワイじゃないわよ!コレで何度目?あたし、もうアンタのメンドウ見てあげないからね!」

「しょ・・・しょんなぁ〜〜・・・」


怒られて泣きそうな顔を浮かべるのぞみ。
現れたのはチーム5GOGO!のメンバーの1人、キュアルージュこと夏木りんだった。
手には大きな手提げバッグをぶら下げており、そこからのぞみに、忘れて放り出しっぱなしになっていた彼女の練習着を突き付けた。
幼馴染でしっかり者のりんはいつものんびり屋でお気楽なのぞみの世話を焼いてはこうして時に母親のように叱る。
幼馴染のボケとツッコミ役、と周囲に揶揄されるほどプリキュアの中では見慣れた光景だが、こうしてのぞみに厳しく接しつつも何かといつもいつも甲斐甲斐しく世話を焼いている。
りんはくるっと周囲を見回すと、再びバッグの中に手を突っ込む。


「ホラ、うららっ!アンタも!ケータイ置きっぱなしだった!」

「あ!ホントだ・・忘れてた・・えへへvゴメンなさぁ〜い。ありがとうございます」

「ちゃんとレッスンのあとはキチンと身の回り整理整頓!そうしないからこうやって忘れ物しちゃうのよ?確認しなさい。それにえりか!」

「え?ええ?今度はアタシ?アタシなんか忘れてたっけ?」

「こんなモノがゴミ箱の中にあったわよ?」

「ゲッッ!ソレってさっきドサクサに捨てた追試の告知用紙じゃん!」
「え・・えりかそんなの捨てたんですか?」

「な・・なんでりんが持ってんのよぉ〜?拾わなくてよかったのにぃ!余計なお世話だってのぉ!」

「あ・の・ね!アンタあたしが拾わなかったらコレ、昨日ベラ先生に見つかってたわよ?」

「ゲエッッ!・・ま・・マジで?」

「たまたまゴミ箱の中に貴重品が落ちてないか確認してたの。この間、のぞみのバカが間違えて自分のサイフ中に捨てて大騒ぎになったから・・・いいのよ?ベラ先生にコレ見せたって、ま、ただ赤点取ったならまだしも、追試の告知用紙まで、しかも保護者印まで必要なプリント捨てたなんてベラ先生に知れたらぁ?多分お説教だけじゃあすまないわよねぇ〜」

「ギャーーーーっっ!ヤメテーっソレダケはーーっ!わっ・・わかった!わかったよっ!あっ・・ありがと!さんきゅっ!助かった!」

「それからなぎさ先輩!」

「はっ・・ハイ!あ・・あたしっ!?え?ウソ?なんかあたしも忘れ物??」

「そ〜〜じゃなくってぇ・・ハイ、コレ。頼まれてたブレスレットです」

「あ!おぉぉ〜〜っそうよそうよ!頼んでたんだった!」

「頼んでたんだ。じゃないですよもうっ!レッスンの時間に間に合うように作ってほしいって言ったのなぎさ先輩じゃないですかぁ!なのに昨日見たいドラマがあるとか言ってさっさと帰っちゃって・・どうして言ったくせに忘れちゃうかなぁ?」

「アッハハハハ、ゴメンゴメン。いやぁ〜・・よくできてるvその辺の100均に売ってるヤツなんかよりゼンッゼン出来いい♪アンタ天才じゃないのよ、りん!」

///そ・・・そんなコト言ったって何もでませんからね///


と、次々とりんはバッグから忘れ物を取り出してはそれを次々と渡したり、頼まれたものを渡したりと、短い時間の中でクルクルテキパキと働いている。
その様はまるでメイドか家政婦のようで、しっかり者のりんちゃんにのぞみやえりか等はもちろん、年上で先輩のなぎさですら頭を掻いて恐縮した。


「なぎさぁ、もうダメじゃない。りんさんに悪いでしょ?」
「なぎさはいっつもそういう風にいい加減だから困るんだメポ!」

「もうっ何回も言わないでよウルサイなぁ〜・・でも、ま、確かにあのコにはいつも助かってんのよねぇ〜」

「ああ、そっかぁ・・そういやぁ、りんちゃんもしっかりしてて色々気が付くコだよなぁ〜」

「そうなんですよバットさん、りんさんっていつも周りに気が回って、お家がお花屋さんでご両親が忙しいから、学校や部活、仕事の時以外は全部小さい弟さんと妹さんの面倒も見てあげてるみたいなんです」

「確かに、りんがいてくれると安心できるコトがたくさんあるからなぁ〜」

「そりゃタイヘンだなぁ、そんなコトまでしてんスか?あのコ」

少々驚いた様子のバットにココとほのかは笑ってうなづくと答える。

「確かまだ小学生の弟さんと妹さんですよね?」
「ああ、ユウくんとアイちゃんだったかな?お母さんが遅い時はPCAの仕事から帰って掃除洗濯食事の用意、ベッドの用意まで全部彼女1人ですることもあるくらいだからな」

「へえ〜〜・・・」

と、今だに乱雑になったテーブルの上をスタッフでもないのにせっせと片付けているりんの姿を見ながらバットは、あらためて知ったりんのそんな甲斐性に感心して声を漏らした。

(なんてイイコなんだりんちゃん、今の時代に感心な孝行娘だ。ウチに居候してるアホバカKY3兄弟に爪の垢でも煎じて飲ませてやりてえくらいだぜ、よし、あの子にもなんか奢ってやるか。あんな娘ならこれから嫁の貰い手だってそれこそわんさか・・・・・っ!!)


と、そこまで考えた所でバットの全身に電撃が走った。
手元の資料に即座に眼を走らす。そして一拍置いた後、彼にしては珍しく、取り乱したような大声を上げた。



「ああぁーーーーっ!見つけた!」

『!!!』

と、その普段の頼りになる冷静なお兄さんスタッフのいつもの姿とかけ離れた大声に、場にいるプリキュアメンバーたちがビックリして一斉に彼の方を振り向いた。
しかし、止まらないバットはスタスタとりんの方へと近づくと、その手を取ってブンブンと上下に揺らして叫んだ。


「そーだよ!いたよいたいた!いやぁ〜〜、なんで気づかなかったんだろ?りんちゃんがいるじゃねーか!うんうん!決まりだ決まり!」

「え?え?え??!」

「いやぁ〜、そうだ!キミだキミ!キミしかいない!キミに決めた!ああ間違いないっ!オレが決めたキミこそ主役けってーいっ!」

「なっ・・な、な、なっ・・ナニナニナニぃ?そんなのぞみみたいなしゃべりかたしちゃって・・ヤダ、バットさんコワイ・・・」

と、一種狂気にも似たバットの行動を見て、りんは顔を引きつらせてそう言う。
そんな彼女の反応を見て自分の興奮に気づいたのだろう。
バットは「悪い悪い・・・」とその手を離すと、すぐさまりんを拝むように彼女の前に手をパンッと合わせてこう懇願した。


「頼むりんちゃん!今度のバラエティーの生番組、「みんなの大疑問解決!今をときめくアイドルで1番家庭的なのは誰だ!?グランプリ」にプリキュア代表で出演してくれ!」

「?・・は・・・はあっ!?え?・・えと?・・な・・なにぃ?」

「な?なっちゃん、ほのちゃん!あの企画、りんちゃんでいいんじゃねえか?」

「へ?・・ああぁっ!そうだ!ほのか、りんがいるじゃない!」
「そうね、確かに!うんうん、言われてみれば・・・りんさんピッタリよ!グッドアイデアじゃない!」

「ちっ・・ちょっと、なぎさ先輩もほのかさんも・・・みんなどうしちゃったんですか?」

まったく訳が分からないという感じの疑問を顔いっぱいに浮かべるりん。

「いや、実はね・・・」

「おや?みんな、今日は休日だぞ。どうしたんだい?みんなしてココに集まって・・・」

と、りんに理由を話そうとしたバットの耳に届いた声。
彼だけではなく、全員がその声の主に振り返ると・・・



「ああー、ベラせんせーだ」
「ホントだ、先生がいるぅ〜」

のぞみとえりかが指さす先には、買い物袋を携えたベラ先生が、公園の入り口からこちら側に歩いてくるところだった。

「おはようございます、先生、どうしたんですか?あ、先生もお買い物?」
「ああ、まあね。それより、みんなこそなにかあったのかい?」

「ああちょうどよかった!ベラさん、見つかりましたよ、昨日言ってた企画にピッタリのコ!」

「?え?」

突然のコトでコチラも話が見えないベラ先生に、バットはさらに戸惑い顔全開のりんを指し示した。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「楽しい楽しい日曜日ぃ〜♪家族みんながオヤスミぃ〜♪み・ん・なでおでかけvランララ〜♪」

「まぁ、パパったらはしゃいじゃってv」

「いやぁ〜だって休日に家族そろってお出かけできるなんてこんなに嬉しいコトなんてないさママぁ〜v」

「そうね!確かにそうだわぁv日曜日は大切にしないとねぇ〜」

「・・・・・」

「ん?どうしたんだいオリヴィエ、つまらなそうな顔しちゃって、みんなでお話しようよvせっかくのドライブなんだからさぁ〜♪」

「・・・あのさ、毎週毎週週末になるたびにどっかに遊びに行くのさ、よく飽きないよね。それに僕がいる前で毎度毎度そんな風にイチャつくのって恥ずかしくないの?」

「別にぃ〜、仲が良いコトの何よりの証拠じゃないか、ねえママぁーv」
「パパぁ〜、きっとオリヴィエったら照れちゃってるのよv思春期の男の子は難しいものですからvでもソコが可愛いんだけどねv」


行楽日和の本日日曜日。
悪の秘密結社、ワルサーシヨッカー社長サラマンダー・藤原は家族とともに週末の恒例である、家族ドライブに出ていた。
いつもそうだが、サラマンダーと妻であるアナコンディ夫婦は未だにラブラブであり、休日には必ずと言っていいほど一緒に出掛ける。
仲が良いのはもちろん素晴らしいコトなのだが、息子の前でまで、四六時中三百六十五日イチャイチャイチャイチャされるのは息子であるオリヴィエとしてはいい加減恥ずかしくなってしまう。
家の中でもそう感じるのに外に出た時までこんな感じでは周りの視線が痛いのだ。
それに最近はこの居候の人まで加わってさらにわけのわからない状況になっているから困ったものである。


「オイ、サラマンダー。そろそろ休憩しねえのか?俺様腹が減ってきたぞ」

後部座席、オリヴィエの隣に座っていたヘルメット姿がお馴染みの自称悪のカリスマ。
ジャギさんが運転席のサラマンダーに向かってそう言った。
見ればみんな思い思い、普段のスーツ姿ではなくラフな普段着なのだが、彼だけはいつものスタイルである。

「そう言えばそうね、パパ。そろそろお昼じゃないかしら?」

「おっと、気づいてみればもう時間がお昼を回ってるじゃないか。よし、お昼にしましょう!みんな何か食べたいものあるかな〜?オリヴィエは?」

「特にないよ。父さん母さんの好きなものにしたら?」

「じゃあジャギさん?」

「うまいものならなんでもいい!とにかく早くどっか美味い店へ、連れてってみろ!食わせてみろ!俺の名を言ってみろォ〜っ!」

「あらぁ?じゃあパパ、わたしのリクエストでいい?」

「ああ、もちろんだよ!どこか行きたいとこでもあるのかな?」

「ウフフ、実はねぇ、行ってみたいお店があったのよv」


と言って心底アナコンディは嬉しそうに笑った。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「えぇ〜?あ、あたしが?その番組にぃ?PCAを代表して?」

「そうなんだよ!これってかなり家庭的なスキルが求められるみたいでさぁ〜、生放送だし、いろいろ器用なコトができるコっていったらもうりんちゃんくらいしか思い浮かばなくって・・ねえ?ベラさん。りんちゃんなら何も問題ないっスよね?」

「そうだな・・・うん、確かに・・いつものチームでの働きぶりや甲斐性の良さを見てると期待できるはできるが・・・」

「でしょ?なあ、りんちゃん。頼まれてくれねえかな?ハッキリ言ってピンチなんだよ」

「ええぇ〜?でも・・・」

「いいじゃん!やりなよりんちゃんv」

「ウンウン!りんちゃんならできるよ!アタシらと同い年なのにスッゴイしっかり者だし、大丈夫!みんなで応援しちゃうからっ!しあわせGETだよ♪」

「ココで決めなきゃ女がすたるって!やろうよ!」

「うぅ〜ん・・でもなぁ・・・」

りんは顔を俯かせて悩んだ。
自分に期待が寄せられているのは嬉しい。正義感と責任感の強い彼女のこと、何とかしてみんなの期待に応えたいとは思っている。
でもだからこそ、悩む。考える。

出る以上は中途半端なコトは出来ない。さらに期間は1週間後、短いのも事実。
となるとその番組のための準備にある程度の時間を割かなければならないだろう。
彼女には幼い弟や妹がいる。
忙しい両親に代わって自分が親代わりとなり何かと面倒を見なければならない。
それでもプリキュアになり、PCA21にスカウトされ、この仕事を始めてからは今の状況でもなにかと多忙な両親に負担をかけているのだ。これ以上お父さんやお母さんに大変な思いをさせるわけにはいかない。
ともすれば、今でもフットサル部と並行して彼女自身わりとギリギリの線で頑張っているのに、生出演という大舞台で満足のいく結果が残せるだろうか?りんは心配になってしまっていた。


(どうしよう・・・お父さんとお母さんにこれ以上負担かけらんないよ・・でも、バットさんや先生たちのコトも助けてあげたいし・・・)


「・・・もしかして・・りんちゃん、都合悪いか?」

「え?」

「正直に言っていいんだよ?もし本当に難しいなら先生たち他の方法考えるから、ご両親や弟くん妹ちゃんたちのこともあるだろうに」

一転して期待に満ちた眼差しから、バットとベラの眼の色が自分を気遣う色に変わった。
その眼を見て、りんはとうとう決心した。


「・・・あたし、やってみる・・やります。いや、やらせてください!」


りんは名前の表す通り、迷いのない凛とした声でバットとベラに答える。
その眼は爛々とやる気に輝いていた。

「りんちゃん・・・大丈夫か?いいのか?本当に」

「無理しなくていいんだよ?りん、アンタが色々大変な中でよくやってるの、先生たちみんなしってるんだから」

「大丈夫です。せっかくの仕事だもの、それに、あたしが主役張れるなんて、ちょっぴりウレシイしね♪」

「きゃーっ!さっすが!りんちゃんカッコイイぃ〜♪」
「それでこそみんなの頼りになるお世話役!りんちゃん、カンバってしあわせ、GETだよ!」
「そうこなくっちゃ!ココでキメなきゃ女がすたるっ!・・てねv」

りんの決意を聞いて周りにいたのぞみやラブ、響など他のメンバー達も喜びの声を上げる。
友達思いの彼女達らしい微笑ましい図だが、ベラだけは複雑な思いでその光景を見つめていた。

「どうしたんスか?ベラさん」

「ああ、うん。なんでもないさ」

「ふぃ〜・・それにしてもよかったっスね。まさかりんちゃんがこの仕事受けてくれるなんて、彼女ならきっとやってくれますって!」

「そう・・だね」
(とは言うものの・・・大丈夫なのか?りん)

そう、ベラは彼女、夏木りんの体や精神のコトを心配していた。
いつもりんは両親のため、弟妹、家族のためと自分をガマンして周りに尽くす傾向がある。
そうなればなるほどストレスが溜まるのは本人自身だ。
まだ中学生の女の子、甘えるトコロは甘えてくれていいのだが・・・
彼女が生徒のそんな深層心理の深いところを考えていた時、不意に隣から

「ベラよ何か悩み事か?」

という声が聞こえた。

「おおわあっ!?毎度毎度どっから沸いて出て来るテメエらっ!?」

バットの叫び声。
振り向いたその先には、ケンシロウをはじめとする北斗三兄弟が並んでいた。
バットの問いに「ヒマだからみんなで散歩していた」とあっけらかんと答えるケンシロウ。

「して何か悩んでいたようだが?一体どうしたのだベラよ」
「ぐわはははは!悩みだと?惰弱な!いいだろうこの拳王に相談してみるがよい!」

トキとラオウの問いかけにベラは深刻な顔で考え込む。
バットはそんなベラに「何真剣に考えてんスかベラさん!耳貸しちゃダメですって、ゼッタイロクなコトにならないんだから!」と強く言ったが、ベラは
「そうだな。一応スタッフの一員としてココに居合わせたのも何かの縁かも知れない。実はな・・・」
とこともあろうに内情をつぶさにこのKY三兄弟にしゃべり出してしまった。
あまりの行動にバットは開いた口が塞がらなかった。




「なるほど、そういう事か・・・」
「であるならば我らにもできるコトがあるのではないか?ケンシロウよ」
「ぬわはははは!このラオウに不可能なことなどない!脆弱なる民よ!この俺を頼るがよい!そしてその恩に報いて我が覇道を支えるがよい!」

「・・・ホントにわかってんのかオマエら?ったく、なんだってコイツらに説明しちゃうんだよベラさん、ぜってえ後悔する気がする・・・」

顔を覆って呟くバット。そんな彼の苦労を知っているベラだけに今の彼のストレスや不安もわからないではなかったが、ケンシロウ達に頼れる面があるのなら、それで少しでもりんの負担が軽減できるなら、と彼らに状況を話すことにしたのだ。
きっとマミヤやレイナでも同じことをしだだろうと思う。


「それで、幼い方のりんよ。俺たちに頼みたいことなどあるかな?」

「お・・幼い方?・・って・・あ、ああ。ハイ・・そう・・ですね・・・」

と、ケンシロウ先生が近づいてきてイキナリそんなコトを言われたりん。
幼い方と言われて何のコトかわからずちょっと戸惑ったが、即座にああ、りんって名前は確か同じ事務所の先輩である冨永鈴(とみながりん)のリンと被っているというコトを理解してケンシロウ先生たちに何か自分のやってる役割でできるコトあったっけ?やってもらえるようなコトなにかあるっけ?と考える。

「遠慮しなくていいのだぞ。なんでも言ってみたまえ、できうるかぎりのことはしたいとおも・・・ゴッホッ!ゴホゴホッ!」
「さっさと言えい!うぬはこの拳王を待たす気か!?」

相変わらずの病弱な体と偉そうな体を見せられたりんだが、しばらく考え込んで、ゆっくりと言葉を口にした。


「じ・・じゃあ・・・みんなの練習着取りまとめて、クリーニング担当のおばさんのところに持っていくのとか・・やってもらえますか?」

「おやすいごようだ。ではその役は俺がやろう」

「え・・えと、それと・・それだけじゃなくって、学校の同級生相手にしてるビーズアクセと編み物サークル・・放課後たった30分くらいなんだけど、それも・・・」

「裁縫なら私は心得がある。ビーズアクセとかいうものはよくわからんが、コツさえ教えてもらえばできるだろう」

「それと・・あと、今度・・実はフットサルの部活の他に日曜の柔道の試合、助っ人やるコトになってて・・・それも・・・」

「わっはははは!柔道とな、相手をただ投げればよいというあの惰弱なる武術か!よかろう、この拳王が愚民どもに北斗の投げとは何たるかを知らしめてくれる!俺を使えい小娘!」


と、りんが立て続けに挙げた役割や仕事をそれぞれ、ケンシロウ、トキ、ラオウの3人が即座に引き受ける。


「いいのかい?ケンシロウ、お兄さんたちも・・・」
「ほ、ホントにいいんですか?ダイジョウブ?ケンシロウ先生たち・・・」

「ああ、まかせてくれ。いつも幼い方のりんは頑張っているからな。」
「わたしたちにも手伝いさせておくれ。心配いらないよ・・ゴホッゴホっ!ゥゴホっ!」
「うぬはこの拳王の力を疑るかあっ!?とっととまかせい!そしてこの恩を我が覇道を支えることによって返すがよい!」

「テメエらの普段の行動がぜんっぜん信用できねーから心配してんだろーがぁーーっ!りんちゃん!やめとけ!助っ人のコトならマミヤさんたちに相談してからでも・・・なんなら俺が探してやってもいいから・・・」

「そ・・そこまで言ってくれるなら・・・まかせちゃおっかな?ケンシロウ先生たちに・・・」
「ってキミも人のハナシ聞けってぇ〜〜〜っっ!絶対後悔すんぞオイ!」


いつも何かと厄介事を引き起こしてしまう北斗三兄弟。
そんな彼らに危機感を募らせているバットの忠告に耳を貸す気もないりんちゃん。
彼女を心配していつものツッコミを入れるバットだが、当のりんちゃんは知ってか知らずか無視である。
そんなバットをベラが宥める。


「まあ、バット、お前の気持ちもわかるが、ココはりんの思うようにさせてみよう」

「え〜〜?・・・オレ絶対りんちゃん後悔すると思いますよ?」

「大丈夫だって、できるできる!ダイジョーブ!」

「・・・!?っておわっ!?今度はコッチのリン!?オマエも一体どっから出てくんだいつも!」

と、ベラとバットの背後に不意に現れたのはPCA21の先輩女優である冨永鈴である。
相変わらずの神出鬼没にバットがツッコミの声を上げるがそれを一切気にせずにリンは必死にメモをとっている夏木りんに近づくと、彼女の髪をそっと撫でて言った。


「番組にはあたしも出るから、心配しないでりんちゃん!何か困ったコトがあったら遠慮なく言ってね?」

「・・リン先輩・・ハイ・・あ、ありがとございます・・・」

「ダイジョウブ!りんちゃんてばしっかり者だし、マジメだからあたし、何の心配もしてないわよ。んふふvで・もぉ〜〜♪もしポカやらかしちゃったりしたらぁ、ウチの事務所にとって当然マイナスだしぃ〜、同じ「リン」って名前ついてるあたしの評判も落ちちゃうかもだからぁ〜、その辺はよぉ〜〜く覚えといてねv」

「ひっ・・・ひゃっ・・ひゃいっ・・」

「ってコラぁーーっ!リン!オメーもさりげな〜くヘビーなプレッシャーかけてんじゃねーよ!」


と、満面の笑みでりんを安心させるように肩に手を置きながら、この日最大の重圧をサラっとかけたリンにバットがまたしても突っ込む。
プリキュアの方のりんはというと、そんな笑顔のリン先輩に引きつった顔を前面に出し、小さく震えていた。

事務所にとってマイナス。
リン先輩の評判も落ちちゃう。


(ぜ・・・ゼッタイに失敗できないっっ)


りんの心の中で緊張感に支配された使命感がドクドクと波打っていた。


「りんちゃん、ホント、そんなにプレッシャー感じるコトないぜ?無理そうなら言ってくれればいいし、オレたちだって精一杯サポートするから」

「い・・いえ、大丈夫です!まかせてくださいっ!」

「さっすがりんちゃーん!じゃあ、今日は前祝いにみんなでドーナツパーティーしちゃおぉ〜っ!カオルちゃ〜〜んっ!ドーナツ追加ねぇ〜♪」


「ハイよーvお嬢ちゃん達また新しい仕事決まったんだねぇ〜、オジサン、サービスしちゃうよぉ〜vもっとも、サービス精神いっつもなんだケドね、ぐは♪」

勝手に盛り上がっているプリキュア戦士のお嬢さま方、ベラもりんのコトが心配だったが、しっかり者の彼女が大丈夫だと言ったのだから、とりあえずはまかせておいてみよう。

「ケンシロウたちも、ドーナツ食べるかい?」
「ああ、助かるベラ。ドーナツなどという高価な食料、なかなか口にできるものではないからな」

と、追加のドーナツを前祝いにプリキュア達だけでなく、北斗三兄弟にもついでにご馳走してあげようと、ベラが財布を取り出した時だった。





「ココ!ココよパパぁー、オリヴィエ!この公園にあるドーナツ屋さん!最近雑誌でも紹介されてて人気爆発中なの!1度食べてみたかったのよねぇ〜♪」

「えぇ〜?母さん、ドーナツってオヤツじゃないの?そんなのお昼にするの?」

「いいじゃないのオリヴィエ!たまには、ココのドーナツすっごくおいしいって評判なんだから、ねえパパー?」

「そうだよねぇーママー。いいじゃないかオリヴィエ!たまにはこういうランチも!ジャギさんもいいですよね?」

「フン!仕方ねえ!そのかわりオレは砂糖がたっぷりまぶしてあるサクサクのヤツじゃねえと喰わねえぞ、砂糖たっぷりでサクサクのヤツを買ってこい!砂糖がたっぷりでサクサクの!」

「ジャギさん、それはクランチって言うんですよ」

「・・・何でもいいからとっとと喰わせろォ!キサマオレをナメていやがるな?オレの名を言ってみろォッ!」




何やら家族連れらしいそんな喧騒が聞こえて来た。
しかし、聞いたことがあるような気がする。どこで?
そう思ってプリキュア戦士のお嬢さまたちとベラ、バット、そしてリンが声のした方を振り返ったときだった。




『あ・・・』

「ん?」




『あああぁあぁーーーーーっっっ!!??』






「オリヴィエ!それにサラマンダーさん!」

「っ・・つぼみ!それに・・えりかにいつき、プリキュアのみんなっ!?どうしてココに!?」

「アァーーっ!?プリキュア戦士のお嬢さんたちっ!」
「ホントに!どおして!?ハっさては待ち伏せね!なんて卑怯な!最近のコたちってばどうしてこう品がないのかしら?ねえパパ・・じゃなくって社長!」

「まちぶせてません!偶然です偶然」
「そもそもアタシらがいるところに勝手にオジサンたちが来ただけでしょ?言いがかりもいいところよまったく!」


なんと、プリキュアたちが打ち合わせをしていたちょうどその時、その場所に対立しているワルサーシヨッカーの社長面々が現れたのだった。
自分達をさも待ち伏せていたかのように言うサラマンダー社長と妻で専務であるアナコンディになぎさとほのかが強い口調で否定する。

「なんだなんだぁ?何を騒いでいやがる?サラマンダー、どうかしたか?」

「は、はあ、ジャギさん。実は・・・」

「んん〜?ソコにいるのはお前らがいつも煮え湯を飲まされてるプリキュアとかいうガキどもじゃねえのか?」

「え、ええ。妻の要望を聞いてそのドーナツショップがあるというこの公園に来てみたら・・・」

「あーーっ!あの時のヘルメットオジサン!ほら!つぼみが勝手に廃ビルの中に入って行ってレイナ先生にめちゃくちゃ叱られた時にいたあの人だよ!」
「え・・・えりか・・・思い出させないでくださいぃ・・・今思い出してもオシリが痛くなっちゃいます・・・」

と、ジャギの存在を確認したえりか。
彼女の一言に、その時オリヴィエのCD絡みでレイナに夜の屋外でキビシ〜〜いお尻叩きを受けたつぼみはその時のコトを思い出してえりかに消え入りそうな声で漏らした。
しかし、その時ジャギに会っていなかったプリキュア戦士のお嬢さまたちは目の前のサラマンダー社長の隣から出て来た怪しいヘルメット姿のこの男の人に対して「一体なんなんだ?」とあからさまな不信感を表していた。


「クックックック・・・よぉ〜く見りゃあ、あの時にはいなかったガキどももたくさんいやがるじゃねえか?よぉし、ココで1つコイツらにも俺様の恐ろしさをたっぷりと味わわせてやるとしよう」

「ちっ・・ちょっとまってください!さっきから聞いてればアタシたちが待ち伏せしてたとか、言いがかりつけて・・それに今度は恐ろしさを味わわせてやるって・・何するつもりですか!?周りの人にも迷惑だし、ヤメテくださいっ!」

と、彼女達の前に歩み寄って来たジャギの前に夏木りんが進み出て、きっぱりとした口調でそう言った。
なぎさとほのかはそれを見て
「りんさん!」
「あっ・・あぶないわよりん!そのオジサンなんか怪しいし・・・うかつに近づいちゃダメ!」
と叫んだが、彼女は燃えるような瞳でジャギを見据えると口を真一文字に結んで一歩も退かないというそぶりを表していた。


「なんだぁ〜?このガキ、この俺様に意見しようってのかあ?」

「そうよ!大体アンタたち大人のクセしていっつもくだらない妨害ばっかりしてさ、芸能事務所なら正々堂々とテレビや音楽で勝負しなさいよ!」

「なぁ〜にぃ〜?なかなか生意気なガキじゃねえかぁ。この俺様相手にそこまでモノが言えるとは見上げたものだ、だがケンカを売る相手を間違えたなぁ〜、覚悟しろ小娘!この俺の北斗羅漢撃で二度とその減らず口を叩けなくしてやるぞぉ〜」

「ちょっ・・ちょっとやめろっての!こんなトコで人殴ったりしたら犯罪になりますよ!」
「そうだ!しかもこんな年端もいかぬ少女に手を上げようなど、拳法家のクセに恥ずかしくないのか?」

「バァーカめ!悪に道理など無用!悪に倫理など無価値!邪魔をするものは全てこの拳によって排除するのみ!それが悪というものだ」

と、りんの前に立ちふさがって彼の暴挙を必死で止めようとするバットとベラ。
その姿に集団の後方にいたケンシロウが気付いた。

「む?キサマは・・・ジャギ!」

「うぅ〜ん?・・誰だぁ?聞かれてもいねえのに俺の名を呼ぶ奴は?俺の名を知っているのは俺自身とココにいるサラマンダーたちと、そして忌まわしきケンシロ・・・・・けっ・・ケンシロウーーーっっ!」


と、ジャギもケンシロウ率いる北斗三兄弟の存在に気づいて大声を上げる。

「む?うぬは、我らが愚弟ジャギ?」
「おお、姿を消したと思えば、ジャギよ。今までどこにいたのだ?」

「あっ・・兄者たちまで、こんなトコロで会うとは・・・しかし、なぜだ?なぜ兄者たちまでそんな末弟のケンシロウごときと一緒に行動しているんだぁー!?」

「なぜって・・・」
「一緒に住んでいるからだ」

「住んでいるだぁ〜?何を言うか!?いつからそんな軟弱になったのだぁ!?ラオウの兄者もトキの兄者も!末弟のケンシロウごときと寝食を共にして恥ずかしくねえのかあ!?」

「とはいっても・・な、この病を患った体ではまともな仕事にもありつけず・・ゴハンも食べれんのだ。ケンシロウはおろか今はバットにも世話になって・・・ゴホッゴホッゴホッ!」
「控えいジャギよ!このラオウ、ケンシロウの軍門に下ったわけではないっ!この太平に乱れ切った世に、我が覇道を1日も早く実現するためにあえてケンシロウの傍にて機を伺っているにすぎん!あと、バットのメシはなかなか旨い」

と、さもありなん。
トキとラオウまでケンシロウと同居してまるでケンシロウを伝承者として肯定しているかのような口ぶりにジャギは「うぬふぬぅ〜〜〜・・・」と怒りの唸り声を上げると・・・



「腑抜けたか兄者どもはあぁ〜〜〜っっ!」



そんなジャギの怒声に続いて、公園に女性子ども、そしてプリキュアちゃんたちの悲鳴が木霊した。
ジャギが放った八つ当たりの裏拳が公園に立っていた頑丈な鉄製の電灯をへし折ったのだ。

ゴオンッ!という轟音とともにまるで針金のようのグニャリとヘシ曲がり、ライトの部分が地面に叩きつけられてバリーン!と派手に壊れる。
穏やかな休日の昼下がりに突如起こった異常事態。周囲では「こわいよぉーー」「えーんえーん」と言った子ども達の泣き声が響き渡り、その豪腕ぶりにプリキュアの面々も怖気を振ってジャギを見つめた。
このヘルメットオジサンはヘンな上にコワイ。
そしてさらに場の空気を凍りつかせるかのようにコワイオジサンのジャギさんはこう続けた。


「だが俺は認めねえっ!俺より劣る弟にナメられてたまるかぁーっ!ここで会ったとはちょうどいい!拳にて勝負だケンシロウ!」
「ジャギ・・・どこまでも自分勝手な漢、いいだろう!その腐った拳、俺の北斗神拳によって滅してくれる!」

と、ここでケンカする気満々で双方構えをとった、その両者の間に、


「ちょっと!ヤメテください!オジサンもケンシロウ先生も!」


と、再び夏木りんが両手を広げて割って入った。

「こんなトコロでケンカなんてヤメテくださいよ!他の人に迷惑でしょ?ちょっとは考えて!」

「なんだコムスメ!まだ邪魔だてするつもりかぁ?いいだろう・・最初はキサマに俺の恐ろしさを知らせてやるとするか!」

「だぁーーっ!ヤメロってのホント!警察呼ぶぞアンタら!ってか、ケン!お前も乗ってんじゃねえよバカ!」
「このコは番組を控えているんだ。今何かあったらどうしてくれるんだ!ウチとしては何が何でも責任を追及するつもりだぞ!」


バットとそしてベラが身を呈して低俗なケンシロウとジャギの争いに巻き込まれそうになっている夏木りんを守る。
するとベラの言葉に今度はサラマンダーが反応した。


「ん?待ちたまえ。そちらのショートヘアお嬢さん、近々何かの番組に出演するのかな?」

「え・・・ええ、そうですよ。なあ、りんちゃん」

「あ・・えっと、なんかそういうコトになってますケド・・・」

バットとりんにそう言われてサラマンダーはしばし考え込むと、ニヤリと笑ってポンと手を打った。


「そうかそうですか!ならば、同じ芸能関係者として、番組を控えたアイドルにケガをさせたりしては恥さらしもいいとこだな。よし、今日のところは我々が退くとしよう!というワケですから、ジャギさん。落ち着いてケンカはやめてください」

「なぁにおう?ふざけるなよサラマンダー!コレは俺とケンシロウの因縁の対決!部外者が口出しできる問題じゃあねえ!」
「ジャギ、御託はそれだけか?さっさとかかってこい」
「相も変わらず生意気なヤツだケンシロウ!兄より優れた弟などこの世にいないということを今日こそ知らしめてくれるっ!喰らえぇっ!北斗陰陽殺(ほくといんようさつ)!」


しかし、サラマンダーの言葉にも最早聞く耳持たずに戦いを始めようとするジャギとケンシロウ。
周りのバットたちがもうダメだと思ったその時、上がった呑気な声が彼等の間の凍りついた空気を切り裂いた。



「ハ〜イ、カオルちゃん特製!いろどりドーナツハッピーセット出来上がりだよ〜んvあ、そうそうこの新製品のダブルチョコクランチドーナツはオジサンのサービスだからねぇ〜♪」

ドーナツ店の店主であり、そしてPCA21の振り付け先生も兼任するカオルちゃんこと橘薫さんが、間延びした声でそう言った。
その声に今までケンシロウ先生とジャギと呼ばれた怪しげなヘルメットオジサンのケンカに息をひそめていたプリキュア戦士のお嬢さま方も、「あーーっ!カオルちゃんのドーナツ!」「忘れてたっ!追加注文!しかも新作だぁ〜v」「わーいv食べよ食べよw」と途端にドーナツに歓声を上げてカオルちゃんの周りにあっという間に群がった。

「ハイハイハイハイ。慌てないでねぇ〜たくさんあるから。お嬢ちゃんたち元気だねぇ、オジサン元気なコは大好きだよぉ、なんたってオジサンのドーナツは元気な子ども達の笑顔のためにあるからねぇ〜、まあでもオトナでもお金払ってくれる人にはちゃんと売ってるんだけどね♪ぐはvさあさ、そっちのおにーさんたちも!ドーナツでもいかが?」




「・・・ジャギよ。ドーナツが来たようだ。どうだ?ここは一時休戦にして腹ごしらえをしては?」
「・・・フン、いいだろう!腹が減っては何とやらというからなぁ〜、オイ、サラマンダー!アナコンディ!ドーナツだっ!早く俺にドーナツを喰わせろ!考えてみたら昼飯まだじゃねえかハラが減ったぞ!」

「・・えっと・・じゃあ、とりあえず、このケンシロウ・・さんでしたっけ?この人とはケンカはヤメにしてくれるんですね?」

「うん!それよりオナカすいたの!」

「そうそう!なんかちょっとアクシデントあったけど、まずはお昼にしましょvオリヴィエ〜ジャギさぁ〜ん、どれがいい?」

「僕は別に・・・あ、じゃあそのさくらんぼシュガーとかいうのもらおうかな?」
「俺はそのさっき言ってた・・・なんかくらん・げ?くら・・クラクラ?」
「クランチですよジャギさん」
「そうソレだ!とっととそのクランチとかいうヤツをよこせ!」



と、ドーナツの登場で一触即発だったケンシロウとジャギの空気が一変した。
どうやら今の彼等にとっては宿命よりも食欲の方が勝っていたらしく、プリキュアのお嬢さま達と一緒にドーナツを頬張っている。
ラオウやトキなど北斗の兄たちも一緒である。

そしてサラマンダー社長や妻である専務のアナコンディまでもが敵味方関係なくドーナツを食べては人気納得のそのおいしさに歓声を上げていた。
オリヴィエなどはとうに父母を離れて仲良しのつぼみ達と一緒に談笑している。

本当に緩くて本当に悪役なのかどうなのか疑わしくなる悪の秘密結社のオーナー夫婦にバットもベラも閉口したが、とりあえず今ヘタに刺激するのは止めて成り行きに任せるコトにした。
しかし、そこはやはり腐っても悪のリーダーであるサラマンダー藤原。
彼の胸の内に沸いていた野望には、誰も気づかなかった。




(新しい番組かぁ・・・い〜いコト聞いちゃったvよぉし、絶対にジャマしてやろっと♪)




「りんちゃん!テレビがんばってね」
「ダイジョウブっ!りんちゃんなら絶対にできるナリ!自信もっていこうっ!」

「う・・・うん!やってみる。あたしにできる限りのコト・・・絶対に成功させてみせるから!ベラ先生もバットさんも・・・あたしがんばりますから!大丈夫♪」

「そ・・そうか・・・ならいいんだが・・・」
「なら、お前の思うようにしなさい」


(先生たちのためにも、みんなのためにも・・・あたしがしっかりやらなきゃ・・・)






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「キュピーン!ゴシャファイヤー参上!くらえヒエヒエマントめー、必殺メラメラパーンチ!」
「きゃー♪ガンバれゴシャファイヤー!」

「どかーんっ!バリバリーっ」
「ひえ〜っやぁ〜らぁ〜れぇ〜たぁ〜♪」

「えっと・・・今、男子に人気の女子力アップ手料理は・・・グラタン、それと、家庭的度ランクベスト3の編み物は・・・手袋、マフラー・・靴下もそうなんだ」

「お次はゴシャウインドだぁっ!とーうっ!」
「じゃあ、敵はコイツね!モッタイネーゴースト!」

「ビューンビューン!どごーんっ!」
「きゃっきゃっ♪いいぞぉー、ゴシャウインドー!」

「今人気の小物は・・・えぇっと・・・」

「わーいわーい(*´▽`*)
「きゃははははは♪(*´▽`*)

「〜〜〜〜〜っっ」


「・・・・ゆう、あい・・・おねえちゃん今ホンット忙しいんだけど・・・遊ぶならもっと静かに遊んでくれる?」

「え〜〜?今「自然戦隊ゴシャナンジャー」フィギュアで遊んでんのにぃ〜?」
「面白いよ!おねえちゃんもやろぉーvハイ、ゴシャクラウドかしてあげる♪」

「〜〜〜っっそーじゃなくて・・・」

自宅リビング。
テーブルの上で今度の番組で何としても成功をおさめる為に、帰宅した夏木りんは早速購入した専門雑誌を手に勉強をしていたが、まじめな彼女のことだがこれでは気が散って仕方ない。
自室に戻って読めば集中もできるのであろうが、両親が仕事で不在の今、やんちゃ盛りの弟妹を野放しにしておいては何をしでかすかわかったものではない。
ジレンマに悩まされ、イライラがかさむ。

(ハァ・・・お父さんとお母さん、早く帰って来てくんないかなぁ・・・?)

そう思っていた時だった。
りんのスマホが光とともに鳴り響いた。

「あ、お母さんだ」
「え!?おかーさん!?」
「ねえねえおねーちゃん!あいにも!あいにもおはなしさせてぇ〜〜っ」
「ちょっとウルサイっ!しずかにっ!・・・あ、もしもしお母さん、ゴメンね騒がしくて・・・うん、うん・・・え!?キヤマさんのトコロに?」

{そうなの。今日急な来客でどうしてもお花が必要になっちゃったらしくて・・・いつものお得意様だし、届けてあげたいんだけど、もう遅いしどうしようか?ってお父さんと・・・}

「そう・・・うん、わかった。大丈夫。あいとゆうにはあたしから言っておくし、ゴハンもテキトーに作って食べさせるから、安心して」

{そう?大丈夫?学校も部活もお仕事も最近あなたフルタイムじゃないの。ムリしなくていいのよ?急なお話だし、お断りしても・・・}

「ダメだよ、いつもウチのお花買ってくれてる大事なお客さんじゃない。コッチのコトは気にしないで、あたしは大丈夫だから」

{ゴメンね。いつもあなたに苦労かけて、じゃあお願いしようかな?}

「うん、気をつけてね。お父さんもお母さんも」


そう最後に言うと、電話を切ったりん。
フウ、と1つ息を吐くと、彼女は手をポンポンッと打って、まだ遊んでいた幼い弟妹に声をかける。

「さ、ゆう、あい、お片付けして!お姉ちゃん今からゴハンの支度するからね」

「え〜?おかーさんは?」
「おとーさんは?」

「お母さんもお父さんも、ちょっとお仕事遅くなっちゃうって。だから先に夕飯すませよう。あ、そうだお姉ちゃんが支度してる間におフロ入っちゃいなさい」

「うん、わかったぁ〜」
「今日のゴハンなぁ〜に?」

「そうねぇ〜・・冷蔵庫には・・・あ、ベーコンに、ニンジンにタマネギ・・パプリカかぁ・・・よし!パスタもあるからスパゲッティにしよっか。ベーコンと野菜が余ったらコンソメスープもつくろ!ホラホラ、早く片付けておフロ!」

お姉ちゃんのその声に「はぁい!」と返事をしながら風呂場へと駆けていく幼い弟妹。
結局今日はもう勉強はできないだろう。
そう思いながらも、今、自分がやるべきはお父さんとお母さんの代わりに家族の世話をすることだとりんは自分に言い聞かせていた。



(あたしがやらなきゃ・・・あたしが・・・あたしが)






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






1
週間後・日曜日。
「みんなの大疑問解決!今をときめくアイドルで1番家庭的なのは誰だ!?グランプリ」生放送当日。




「・・・・・・・っっっ」

「・・・りんちゃん?」

「はっ・・はひっっ!?」

「大丈夫かい?そんなに緊張しなくってもいいんだぜ?もっとリラックスしても。大丈夫だよ。マミヤさんも、ベラさんもサクヤさんも、オレだってついてるし、みんなもいるじゃねーか」

「そ・・・そうですよね、大丈夫っダイジョーブです・・・あたし・・できますから、やれますから・・」

と言いつつも、収録スタジオの控え室、ガチゴチに緊張した面持ちのりんを見て、バットは「このコ、超キンチョーしてるな。ヤバイわ・・」と思った。
番組のメインプログラムに出演するのはりんだけだが、その前にオープニングとして、PCA21の面々が歌を披露する事となっている。
そのため、この場にはいつものメンバー達も同席している。
りんを少しでも緊張から解いてあげようとバットはみんなもいるとの言葉をかけたのだが、それがかえってりんのプレッシャーに拍車をかけてしまったらしい。


(カワイソーに・・こんなにガチガチで・・・ムリさせちまったかなぁ?)

(ど・・ど・・・どぉ〜しよぉ〜〜・・・結局この1週間学校とかゆうとあいの世話とか部活とかでアレコレあってロクにべんきょーできてないよぉ・・うぅ〜・・ミスっちゃったら・・・どうしよう・・)

「おっはよぉ〜う♪みんなぁ〜どう?調子は?イイ感じぃ?」

「あ!リン先輩!」
「おはよーございまーす」

「おはよー、ほのちゃんもうららちゃんも調子よさそうね!おvいたいたぁ〜りんちゃぁ〜ん♪」

と、そんな独特の空気の控え室に入って来たのは、同じ五車プロモーションの先輩女優のリンだ。
彼女はいつもの通りのほほんとした挨拶を交わすと、りんの姿を見つけ、満面の笑みで近寄ると、緊張して固くなっている彼女のほっぺをぷにぷにっと突っついて言った。

「期待してるよぉ〜りんちゃん!スタッフさんにも、共演してくれる俳優さんとかアイドル、芸人さんたちにも言っといたからねぇ、今日はアタシとおんなじ名前の可愛い女の子が参加するってコトvみんな楽しみにしてるからしっかりたのむね〜v」

と、これ以上なくフレンドリーに重圧をさらにかけて来る同じ名前のリン先輩に、プリキュアのりんちゃんはもう引きつった顔をさらに引きつらせて返事もままならなかった。
そんな様子に「あちゃ〜〜・・・やりやがったよコイツ・・・」と言いたげな表情で顔を覆って俯くバット。

(うーん・・・一応マミヤさんとベラさんには相談した方がいいかな?)

「りん、自信をもって、あなたなら大丈夫よ」
「そ、りんちゃんしっかりしてるし、わたし、信じてる♪」

同じチーム5GOGO!の水無月かれんとチームフレッシュの山吹祈里にそう励まされたりんだが、先程のリン先輩の言葉ですっかり極限ナーバス状態になってしまっており、大して返事を返すこともできずに黙り込んでしまった。
バットが飲み物でも飲ませれば落ち着くかも知れないと、グラスに麦茶を注いだ、その時だった。

「り〜んちゃぁ〜ん!あたしの衣装のボタンつけて〜」

いつもの呑気な声。ドアから入って来た方へ振り向いてみるとやっぱり、夢原のぞみが笑顔で中に駆け込んでくる。

「のぞみ?ボタンって・・・ああっ!?アンタ、このブレザー昨日マミヤ先生からもらったばっかりのヤツじゃんっ!なんでももう2番目ボタン取れてるの!?ってかどうして取れたの!?」

「えっとねー、ラブちゃんと響ちゃんといっしょにねー、WE ARE FIT(ウィーアーフィット)で遊んでたら転んじゃって、とれちゃった・・・」

「今そんなモンで遊ぶなぁーっガキかアンタわぁ〜っ!ああっもうっ!時間無いってのに・・・ちょっと貸しなさいっ!バットさん、針と糸あります?」

「あ、ああ。一応裁縫道具あるから・・・でも、りんちゃんこの後番組だろ?オレ代わりにやろうか?」

ここに来てののぞみの空気を読まないまさかの失態。
気をつかって自分がボタンをつけようか?と申し出たバットだが、りんは「いいんです、慣れてますから・・・」とバットから裁縫道具を借りると、さっさとつけにかかる。
しかし、ソコにまた新たなトラブルが舞い込んできた。


「ゴメン、りんちゃ〜ん、悪いんだけど、このブラウス、アイロンかけてくんない?なんかカバンの奥のほうにしまいこんでたらしわくちゃになっちゃって・・・あたし、アイロンヘタだし・・・」

「ええ!?響もぉ!?もう、ダメじゃないの!自分の洋服くらいちゃんと管理しないと。そんなだからせっかくいい服だってアンタの傷みが激しいんじゃない。ああもう仕方ないなぁ、ホラ、そのテーブルの上に置いといて、コレ終わったらやってあげるから」

「さんきゅー♪たすかっちゃった、えへへ〜v」

と、テーブルの上にポーイとブラウスを投げ出してそのままどこかへと行ってしまう響。
自分の服のことなのに無責任この上ない態度である。

「ハイ!のぞみ!終わり!」
「きゃーvありがとりんちゃん♪」
「ったく、ちゃんと身の回りの整理しておきなさいよ。いいわね?」
「ハ〜イv」

満面の笑顔で能天気にそう答えるのぞみを尻目に、りんは今度はテーブルの上に投げ出された響のブラウスをとった。

(ったく・・響も・・・なんであたしがこんなコトまでしなきゃならないのよ?)

と、ふと沸いた彼女の疑問。
ソレが、引き金だったのかもしれない。

「・・・ホント・・・なんであたし・・・こんなコトやってんだろ?」

家でも、学校でも、プリキュアでも・・・
あたしはみんなのナニ?
彼女の中で急に発生した不快なモヤモヤ感。

「いやぁ〜、助かるよぉりん!いつもいつもありがとねv」
「・・・なぎさ先輩?」

と、そんなりんの肩に手を置いてなぎさが笑いかけて来た。
そのまま彼女が続ける。

「アンタみたいに何でもテキパキこなせて、面倒見がよくて頼りになるコってなかなかいないもんよ。ホント貴重な存在だわ」

「キ・・・チョウ?」

「みんな感謝してるのよ?しっかり者のりんちゃんに。ありがとねv」

「・・・しっ・・・かり・・もの・・かぁ・・・」

「ところでぇ〜、そんなしっかり者のりんちゃんにお願いがあるんだけどさぁ〜・・」
「え?」

「今度の土曜日ぃ、あたしにハンバーグの作り方教えてくんない?」

「へ?」

「い・・いやさあ、再来週の日曜日、久しぶりに藤Pセンパイと・・そのぉ・・デートっつーかなんつーか・・あるんだけどさあ、藤Pセンパイって実はハンバーグ大好きなんだよねぇ〜でも、ホラ、あたしって料理とかヘタクソじゃん。そりゃホント簡単なヤツだったらなんとかなるけどさ、おいしいかどうか自信ないし・・・ってなワケで頼めない?コーチ。ホントはラブに頼もうかと思ったんだけどさ、あのコその日ミユキさんと予定あるらしくって・・で、あと頼めるとしたら奏かアンタかなぁ〜と思ってたんだけど、奏ってホラ、色々口やかましそうじゃん。って考えたらやっぱりアンタかなぁ〜なんて・・・」

「・・・・・」

「ねえ?いいでしょ?センパイの頼みだとおもってさあ」

「あ!なっちゃん先輩だけズルイ!あたしにも教えてりんちゃん!」

「な、なによ美希!アンタ別に必要ないでしょ?コッチは緊急なの!」

「チッチッチ、なっちゃん先輩わかってないなぁ〜。今時のモデルやアイドルはぁ、料理もできなきゃ目立てないの!ハンバーグっていったら男の子が好きなおかずの中でもトップの位置づけでしょ?やっぱり美希たんとしてはちゃんとマイスキルの中に入れておきたいもんvりんちゃんなら安心よぉ!ね〜?ミキたんのおねがいvいいでしょ?」


その時だった。
バットがりんの微妙な変化に気づいたのは。
いつもの彼女の状態と何かが違う。そう思ったのだった。
しかし彼がそう思ってりんに何か話そうとしたところ、まさに彼女のソロデビュー番組が始まろうとしていたその時に事件が起きたのだ。





「うわあぁあーーーっっなっ・・なんだあっ!?」
「きゃあーーっナニよアレ!?」 「バケモノだあっスタジオにデッカイ化け物が現れたぞぉっ!?」
「なんだありゃあっ!?これから本番だってのにどうなってんだあっ!?」 「とりあえずお客非難させろお客を!」



「?なんだ?えらく外が騒がしいが・・・オイ、ケン。とりあえず様子見てこい」
「うむ」

と、りんの方へと体を向けていたバットだったが、外の喧騒に気づいた彼は、ドアの近くでペットボトルのドリンクを整理していたケンシロウに外の様子を確認するようにと言った。
言いつけられたケンシロウがドアに手をかけようとしたその時、


「みんないる!?緊急事態よっ!」
「またワルサーシヨッカーの連中が妨害しに来たよ!ステージ前に出番だみんな!」


ドアが勢いよく開けられてマミヤとベラが駆け込んできた。
勢いがあり過ぎて、ドアの傍にいたケンシロウに扉が衝突して、派手に吹き飛んだくらいだ。

「あ!?け、ケン!」
「すまない、大丈夫か?」
「ああ。このくらい北斗の修行に比べればどうということはない。気にするな」

「そ・・そう、とにかく、みんな行けるかしら?」

「OKよ先生っ!ったく、シヨッカーのヤツラ、こんな時までジャマしてくれちゃって、マジありえないっ!みんな、準備はいい?いくわよ!」

『はいっ!』

マミヤ先生とベラ先生の呼びかけに答えたリーダーのなぎさが、チーム全体に号令をかけると、その場にいたPCA21のメンバー全員が元気よく返事をし、変身アイテムや、妖精を引き連れてその場を後にした。


「?どしたの?りんちゃん、具合でも悪いの?」
「何でもないわよっ!いいからほっといてっ!」
「?」

と、途中夏木りんの顔色が心なしか沈んでいたので、のぞみが軽く声をかけた。
しかしその言葉に予想以上のイラついた反応が帰って来たので、のぞみもおや?とは思ったが、それ以上は追及しないことにした。











「お初にお目にかかるプリキュアの諸君!ワタシはキントレイ・コスギ!コードネーム・キントレスキーなり!我が社の社長、サラマンダー藤原より貴殿らを誅せとの指令を受けた。いざ!尋常に勝負されよ!」

と、番組撮影のステージ上で声高に自己紹介したのは、世紀末によく居そうなモヒカンに口髭を蓄えた筋骨隆々とした大男だった。
傍らに巨大なマイクやアンプが合体したような巨大なバケモノ、ウザイナーを控えている。彼に正面から対峙しているのはPCA21の少女達だけだった。
他の客やスタッフはどうやら逃げ出した後らしく、辺りには彼女たちと、そしてPCAのマネージャー先生とバットたちしかいない。

「勝負されよじゃないわよっ!まったく生放送前で忙しいのにいっつもいっつも・・いい加減にしてよねまったく!」
「そうです、アナタたちだって芸能関係者なんでしょう?なのにマナーが悪すぎますよ!」

「今日はりんちゃんの初めてのソロ出演なのに・・・ジャマしにきちゃうなんてゲンゴドーダンナリよっ!」
「さ、咲、それ言うなら言語道断(ごんごどうだん)だと思うケド・・・」

「む?ナルホド、そうか。それは失礼した。今後慎むとしよう。ではあらためて、さあ!ワタシと勝負だプリキュアよ!」

「イヤイヤ!だから話聞けって!今後そうするとか今後気をつけましょうとかアンタ小学生の言い訳かよ?納得したならさっさとお引き取りくださいっての、みんな迷惑してんだからよ」


「みんな変身よ!」
『ハイ!』



「って、うおぉぉぉいっ!キミらも結局ヘンシンすんのかーーーーーいっっ!?」



と、なぎさやほのか達の指摘を適当に受け流してまだ自分の要求を吹っ掛けて来た目の前の筋肉ムキムキ男に側にいたバットも勿論文句を言って退散していただこうかと思った時、なぜかリーダーの美墨なぎさがメンバー達に変身の指令を下した。
なんでこの状況で変身というコトになるのか?そもそもキミたちだって最初文句言ってたでしょ?
無駄とは知りながらももうお決まりとなった得意のツッコミを入れるバット。
そんなバットさんの気持ちなんてどこ吹く風のプリキュアちゃんたちは、リーダーの号令にそれぞれ変身アイテムやフォームチェンジした妖精さんたちを構えた。




『デュアル・オーロラウェイブ!』
「ルミナス・シャイニングストリーム!」

『デュアル・スピリチュアルパワー!』

『プリキュア・メタモルフォーゼ!』

『チェインジプリキュア・ビートアップ!』

『プリキュア・オープンマイハート!』

『レッツプレイ!プリキュア・モジュレーション!』



『プリキュア・オールスター・21(トゥエンティーワン)!ただいま参上!あなたの好きには、させないっ!』



「やる気まんまんじゃねーか!たまにはバトル無しで解決とかできねーのかよ!?」
「わあvみんなキマってるぅ〜vそれいけーガンバレー♪」
「って、リンんんっ!?オマエも毎回どこからともなく現れてさりげな〜く煽ってんじゃねーよ!」


そして先程の筋肉男への非難はどこへやら?
変身したとたん俄然やっつける気まんまんのプリキュア戦士のお嬢さま方と、そして例によって例の如く、どこからか突然現れた神出鬼没のリンに対して、バットは混乱をまるで自制するためでもあるかのように突っ込んだ。
そうこうしているうちに「では勝負!ゆけいっウザイナー!」と筋肉男が叫ぶと、バケモノは「ウザァイナァーっ」と吼えかかって突っ込んできた。
即座に散開するプリキュア陣営。


「でやあっ!」
「ハイっ!」

まずは、チーム全体のリーダー格、ブラック、ホワイトの高校生コンビがウザイナーにオーバーハンドブローと回転ミドルキックのコンボを叩き込む。
ダメージは些細だが、動きを止めた所に今度はシャイニールミナスがハーティエルアンクションを浴びせかける。
「ウ・・ザイッ・・ナ?」と呻いて今度はハッキリと動きが止まった。
ソコにブルームとイーグレットが掌に魔力を集中させた掌底を打ち込む。

「やあっ!」
「えいっ!」

「ウッザイナアっ!?」

「コッチはまかせて、ハア!」

「とおっ!」
「プリキュア・からだ・ぱんち!」
「マリンシュート!」


『プリキュア・クアドラプル・キック!』


飛んできたウザイナーを、今度はカウンターパンチでムーンライトが迎撃。
そこからさらにサンシャインが合気の要領で投げ飛ばすと、そのウザイナーをブロッサムとマリンがそれぞれ得意技で弾き返す。
さらに追い打ちとばかりに、今度はチームフレッシュの面々、ピーチ、ベリー、パイン、パッションが合体キックで追撃した。
流れるような連続攻撃。
きりもみしているウザイナーを見て、こうしてはおれない、とついにキントレスキーが動いた。


「むう、成程、中々の攻撃、しかし、調子に乗るのもここまでだ!いざ!」

それは男のドデカイ図体からは想像できないスピードだった。
キントレスキーは一瞬でブラックまで突進すると、その推進力を生かした渾身の拳撃を彼女に叩きつけた。
その威力たるや、チームの中で持ち前のパワーとタフネスで常にメンバー達をリードし、ラクロスのエースとしても活躍している体力自慢のキュアブラックがいとも簡単に吹き飛ぶ程のものだった。

「きゃあっ!?」
「ブラック!?・・・やあっ!?」

続いて連動された回し蹴りが側にいたホワイトを薙ぎ飛ばす。
止まることの無い筋肉男の連携攻撃は続いて小さな体のルミナスを掴み上げると、そのまま彼女をまるで野球のボールのようにブルームに投げつける。
吹き飛んだ彼女達を助けようとしたイーグレットも巻き添えを喰らい、悲鳴の三重奏が響き渡る。

「ルミナス!イーグレット!ブルーム!」
「ヒドイ!なんてことすんのよもうっ!」
「許さないっ!」
「覚悟なさいっ!」

敵の思わぬ反撃に虚をつかれたプリキュアオールスターだったが、すぐさま体制を立て直したチーム・ハートキャッチの面々が、それぞれ武器を手にキントレスキーに飛び掛かる。
だが、それも彼の想定内のコトだった。

「甘い!」
というとキントレスキーは体を反転させ、まず真っ向から飛び掛かって来たサンシャインのタンバリンを左手ではたき落とし、次いでがら空きとなった胴体に強力な蹴りを見舞う。
「あうっ」と弾き飛んだサンシャイン。地面に叩きつけられそうになった彼女をムーンライトが攻撃の手を中断して助けに入り受け止める。
さらに攻撃態勢の緩まったチーム・ハートキャッチの隙をつくかのように、続いてマリンのブルーフォルテウェイブのでがかりを振りかぶったオーバーハンドブローで潰すと、今度はたっぷりとウエイトの乗ったミドルキックをブロッサムに向けて放った。

「きゃああっ!」

コレもしっかりと命中。
もんどりうって地面に激しく倒れるブロッサム。
この状況にウザイナーも奮起。キントレスキーの怒涛の攻撃で次々やられてしまう味方を見て動きを失っていたチーム・フレッシュの面々の背後から、巨大な電気コードの武器を振り回して襲い掛かった。

「ちょっ・・しまっ・・きゃっ!」
「え?なに?ヤダ!ドコさわってんのよもうっ!」
「なっ・・なんなのコレぇ!?」
「うっ・・うごけないぃ〜v」

「ウザイナあぁーーっ!」

コードをぐるぐる巻き付けて行動不能にしたチーム・フレッシュの子ども達を振り回してそのまま放り投げる。
動きの取れなくなった彼女達はそのまま派手に受け身もとれぬままに床の上に叩きつけられた。
変身して身体能力が向上しているとはいえ、かなりのダメージ。痛いものは痛い。


「うぅ〜〜・・・きゅぅっ」
「いぃったぁ〜・・・もうっ!なんなのよ!」
「今のすっごく危ないわよ!?」
「いたたたた・・・みんな大丈夫?」


「みんなっ・・もう!ちょっとそこのアンタ!みんなにあんなコトしてっ!」
「そうよ!ゼッタイゆるさないからっ!」
「今度はあたしたちが相手だからね!」
「覚悟しなさいよっ!」


と、筋肉男の暴挙に今まで場をなんとなく静観してしまっていたチーム・スイートの少女達が怒りの表現を露にそれぞれマジックアイテムを構えた。
方々へ四散すると、4人が得意魔法をお見舞いする。



「プリキュア・ミュージックロンド!」
「プリキュア・ミュージックロンド!」
「プリキュア・ハートフルビートロック!」
「プリキュア・スパークリングシャワー!」



メロディ、リズム、ビート、ミューズ。
各々から放たれた光の飛礫(つぶて)。それらが空を切り裂いてウザイナーに降り注ぐ。
しかし、致命打となるハズだったそれらをまたしてもキントレスキーと名乗る筋肉男が割って入り


「ふんっぬぅっ!」


天空へ突き上げるアッパーカットでそれらの攻撃魔法を粉砕した。
衝撃はそのまま爆風となってチーム・スイートの子ども達へと襲い掛かり、小柄な彼女達は悲鳴を上げて吹き飛ばされた。


「ふえぇ?ウソ?ウソぉっ!」

「つ・・強いです、このオジサン・・・」

「はっはっは!当然のことだ。このキントレスキー、毎日厳しいトレーニングを積んでおる!今までのような惰弱な輩とは違うぞ」


確かにこの濃ゆいムキムキマッチョのオヤジ、今まで出て来たシヨッカーの連中と比べてもかなりの強敵である。
プリキュアとして戦う力で言えば2強であるキュアブラックやキュアムーンライトをしても軽くあしらわれてしまった。召喚しているウザイナーも中々の戦闘力。
残ったチーム・ファイブ・GOGO!の面々は、うかつに動くことができずにた。


「オイオイオイ!ピンチじゃねえかよ嬢ちゃんたち!マミヤさん、ベラさんもどうすんスか?いいんスか?助けなきゃ!」

「いいえ、コレはあのコたちの戦いよ、簡単に止めちゃフェアじゃないわ」
「その通りだ。もう少し様子を見てからでも遅くはないだろう」

「イヤイヤイヤ!なんなんだよそのヘンに正々堂々とした意見!コレって格闘技の試合でもなんでもねえんだぞ!?アンタら保護者だろーが!あっそういや・・ケン!ケンのヤツラはどこ行った!?ラオウ!トキさん!?」
「あ!ケンたちならねえ、さっきお駄賃あげたらよろこんでジュース買いにいっちゃったvえへへ、あたしもノド渇いてたからちょうどよくてさ、ゼロコーラたのんじゃった♪早く帰ってこないかな〜?」
「って何してんだリンおまえわぁっ!?ホンッッットにつかえねえヤツラだなアイツらっ!」


「さあ、もうこれ以上痛い目を見たくないというのであれば、即刻ここで降参の宣言をするがいい。そして今後は我がワルサーシヨッカー社の傘下に下り、我が主サラマンダー・藤原さまを敬愛しその命に心から従うのだ、そうすれば今までの非礼もすべて水に流して・・・」



「ふざけないでよっ!!」



と、キントレスキーがそこまで言った時、味方も驚くような大喝が響き渡った。
のぞみたちチームファイブの面々だけでなく、PCAのメンバー全員がその声の主の方を驚いて見やる。


「・・・り・・りんちゃん?」

のぞみが振り返ったそこには、今まで見たことも無いような怒りの形相をして、燃えるような瞳で筋肉男を睨み付けているキュアルージュこと、夏木りんの姿があった。

「みんな、みんな生放送の前で忙しくってテンパってるっているのにこんな時に・・・空気読むってコト知らないワケ?アンタら!」

「空気を読むだと?それは日本語が違うのではないか少女よ。空気とは大気であり、酸素や二酸化炭素をその中に含む。呼吸して吸ったり、風を感じたりするコトはできても見たり読んだりというコトはできぬもので・・」

「ああもうっウザイ!とっとと出てってよ!プリキュア・ファイヤーストライク!」

といら立ちを爆発させたかのように吼えるとりんは不意をついてウザイナーに向かって炎の蹴球を思い切り蹴りつけた。
フットサル部のエースで、日々スポーツ少女としても精を出すりんの抜群のボールコントロールが炎の球体にも伝わる。火の玉はザケンナーの顔面に命中し、意図していなかった攻撃に化け物はうめき声を上げながら仰け反った。

「む!?不意打ちとは卑怯な!」

「ウルっサイ!ヒキョーなんてアンタらがえらそーに言ってんじゃないわよっ!ファイヤーストライク!」

「ぬうっ!?」

「うりゃっ!うりゃっ!うりゃっ!うりゃっ!うりゃあっ!」

キントレスキーの悪党のクセにと思われるような批判の声が聞こえたが、今のルージュ、もといりんちゃんには関係なかった。
溜まりに溜まったやり場のない怒りを八つ当たり上等で目の前の筋肉男にぶつけてやろう。
そんな一種狂気の沙汰とも思えるほど得意の攻撃魔法を連発して蹴り込んでいくりん。
その鬼気迫るいつもとまるっきり違う乱暴りんちゃんの様子に、PCAメンバー全員がポカ〜ンとアホの子のようにその光景を眺めていた。


「り・・・りんちゃん・・・コワイ・・・」
「ど・・どうしちゃったんですかね?りんさん、いつもとぜんっぜん雰囲気違いますケド・・」
「う〜ん、なにかりんさんも色々と抱えてるコトがあるのかしらね?ストレスが溜まった時は甘いものなんかいいんだけど」
「ちょっと、なに呑気な顔して見てるの!?あのままじゃマズイわよ!」
「アクアの言う通りよ、見て、ルージュの攻撃が、徐々に防がれてきてる」


と、アクアに変身したかれんとミルキィローズに変身したくるみが言うので、ルージュの変貌ぶりに戦いの経過など忘れていたドリームたちも、筋肉男とルージュの戦闘を観察してみた。
すると、確かにルージュが怒涛の連発攻撃魔法を放ってはいるのだが、先程は押され気味になんとか弾き返していた火の玉を今は筋肉男が最小の動作で余裕を持って躱し、正面からのものは拳の振りで掻き消している。
そして、我を忘れて攻撃しているルージュの様子である。やはり変身してもそこはまだわずか齢14歳の少女の体力。
日々スポーツで鍛えているとはいえ、これだけ乱発を続けて明らかにスタミナ切れが来ている。
ルージュのそのスタミナ切れの隙を突いて、キントレスキーが反撃に転じるのは必然の流れだった。


「中々アグレッシブで良い攻撃だが・・残念ながらフィニッシュに欠けるな。これがフィニッシュというものだ!とーうっ!」

「きゃあっ!?」

火の玉を蹴り込んだ次の瞬間、ルージュの疲労がかさんで次への動作が遅れたその瞬間をキントレスキーは見逃さなかった。
最後の火球を意図的にナックルパートでルージュの方へと弾き返し、驚いて体制が崩れた彼女を突進の推進力と100キロはあろうかという男自身のウエイトを生かしたショルダータックルが襲った。
まるでピンボールのようにキュアルージュの小柄な体躯が吹き飛び、地面に勢いよく叩きつけられた。
体を咄嗟に反転させて後頭部は守ったので脳震盪は辛くも免れたが、プリキュアに変身していたとはいえ打ち付けられた体が所々痛かった。

「うっ・・・うぅっ・・たたた」

「り、りんちゃんっ!」

と、そう叫んでキュアドリームがルージュへ駆け寄る。

「大丈夫?りんちゃん」

「へっ・・平気よこのくらい、でも注意して・・あのオヤジ・・強いわ。口だけじゃないみたい」

ルージュがドリームに手を借りて何とか立ち上がる。その姿を見て、あらためてPCA21のメンバー達が一様にこのキントレスキーと名乗る筋肉男が容易ならざる実力者だと感じ、今までない戦力の登場に攻めあぐねいていた。
と、そんな時だった。




「待て。それ以上その少女達に手を出すことはこの俺達が許さん」




いつの間にそこにいたのか?
先程まで姿をとんと見せなかったケンシロウをはじめとする北斗三兄弟が怪物とプリキュアの少女達が戦いを繰り広げているその生放送スタジオ、その場でキントレスキーの正面に立ってそう言った。

「その子達は我々が日頃お世話をしている大切な職場の教え子だ。これ以上の狼藉は我らが許さぬ」
「そやつらめは将来この拳王めの下僕となりし人材!うぬら如きにここで潰させはせぬわ!」

やや勝手なコトを言っている奴がいつも通り若干1名ほどいるが、この男は強敵だし、このままでは可愛いうちの子ども達の身が流石に危険かもしれないと思ったバットは3人に向かって

「ああもお、とりあえずなんか能書き垂れてるヒマあったらソイツとっとと追っ払ってくれオメーら!時間も無いしな」

「なんと!?バットの口からそんな言葉が!?」
「いつも暴れるなとか言ってるではないか?いいの?ホントに?怒らない?メシ抜くぞとか言わない?」

「だぁーっ!るっせえっ!今そんなコト言ってる場合じゃねえんだよ!お前らのその意味不明の拳法ココで生かさなかったら出番ねえだろうが!つべこべ言わずにやれ!とっとと追い払えよその筋肉男!いいですよね?マミヤさん、ベラさん」

「え?・・あ・・・はあ、まあ・・・」
「お前が言うなら・・・いいんじゃないか?別に・・・」

「ぐわはははは!よかろう!その言葉を待っておったぞバットよ!我が拳王の覇者の拳、死出の土産にとくと見知りおけい!」

「何かはわからんが、今度は貴様らが相手というワケか。見れば貴様らも中々良い体をしているではないか。日々トレーニングを積んでいるようだな。だが、筋肉美を誇示してよいのはこのキントレスキーのみ!いいだろう、受けてたとう。行くぞウザイナー!」
「ウザぁイなぁ〜〜っ!」


バットの許しを得て意気揚々とする北斗三兄弟と新たに出て来たよくわからない筋肉三兄弟に同じ筋肉男として負けられないキントレスキーが挑む。
今、中央で4つの筋肉の塊と、音響機材の化け物が交錯。決着は一瞬だった。




「うおおぉーーっ社長!プリキュアのみんなが帰ってきましたぁーっ」
報告。
「とりゃあぁーっ!社長体調が悪いので早退させてくださいぃーっ」
連絡。
「あたたたたたたたぁーっ!社長!時給上げてくださいますかぁーーっ!たあっ!」
相談。


「ぬぅぐわあぁ〜〜〜〜っっ!なんとぉーーっ!?」
「ウザァイィナァァーーーっっ!」


『北斗・ホウ・レン・ソウ拳(けん)!』


3人が揃って打ち込んだそれぞれの拳。
それは、固まって突進してきたキントレスキーとウザイナーをまとめて吹き飛ばした。
スタジオ内高くに突き上げられたキントレスキー達は、錐揉みしてそのまま地べたへと叩きつけられた。

「今よ!」
「みんな!ココで決めろ!」


「ハイ!みんな準備いい?行くよ!」
『YES!』
マミヤとベラの声掛けに、チームファイブGOGO!のメンバー達が一様に反応する。
彼女達は倒れ込んだキントレスキーとウザイナーの隙をついて一斉に攻撃魔法をお見舞いした。



「ミルキィローズ・ブリザード!」
「プリキュア・プリズムチェーン!」

まず、ミルキィローズが薔薇の吹雪でウザイナーの足を止めると、その好機にレモネードが光の鎖を絡みつけてそのまま引き摺り倒す。
そこに今度はミントとアクアが追い打ちをすぐさまかける。

「プリキュア・エメラルドソーサー!」
「プリキュア・サファイアアロー!」

緑光の円盤と青光の矢がウザイナーに向かって降り注ぐ。
もはや死に体となったウザイナーにさらにとどめとばかりに、ルージュとドリームが波状攻撃で襲い掛かった。

「プリキュア・ファイヤーストライク!」
「プリキュア・シューティングスター!」

ルージュの炎の蹴球とドリームの閃光の体当たり。
両者の一撃が見事にとどめとなり、ウザイナーは断末魔を残して光の中に消えてしまった。


「むあっ!?・・うっ・・ウザイナーが!お・・己ぇ!よくもっ」

「あきらめろ。残るはお前1人、もはや勝ち目はない。さあ、今すぐ去るがよい。しかしまだ性懲りもなくやるというのなら、次は我が北斗神拳の絶技をもって相手をしてやろう」

「!?・・・なっ・・なんだと!?い・・今、北斗・・・北斗神拳と言ったか!?」

「ああ言った」

「も、もしや・・・貴公はあの、究極の暗殺拳と言われた、北斗神拳の伝承者か!?」

「うむ。北斗神拳だい六十四代伝承者、霞拳四郎という」

「その兄にして北斗の次兄、トキ」
「この世に覇を唱えんとす、北斗の長兄にして世紀末覇者のラオウだ。頭が高いわ!ひれ伏せい!」


その言葉を聞くと、いきなりケンシロウに指を突き付けてワナワナと震え始めたキントレスキー。
その姿に一体なんなんだ?とマミヤやベラ、バットなどが怪訝な顔をして彼を見つめた。
様子の変わったキントレスキーにプリキュア戦士のお嬢さま方も不安な表情である。

「ほ・・・北斗神拳・・・まさか、まさかこんな所で出会えるとは・・・ここで会ったが百年目!おのれえぇーーっ!北斗神拳めえぇぇ〜〜〜〜っ!」

先程まで冷静だったキントレスキーが突然我を忘れたように叫ぶと、ケンシロウに向かって一直線に突進した。
ケンシロウが瞬時に「む!」構えをとると、彼に向かってキントレスキーはポケットから何やら武器らしきものを取り出し、ソレをケンシロウに向けて突き出し、叫んだ。





「サイン下さい!!」





辺りをしぃ〜〜〜〜〜んとした静寂が包んだのは、言うまでもないコトだった。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「イヤイヤイヤ!まさかまさか、今回もPCA21さんのゲリラショーだったとは、毎度毎度のリアルな演出、お見逸れいたしました!」

「え・・ええ、まあ、どうも・・・」
「そ・・そりゃあ、当のわたしらも圧倒されることがありますから・・・」

戦いの終わった現場スタジオ、番組プロデューサーはたった今見た、戦いを例によってPCA21が主催するゲリラアクションショーだと思い込み、いつもながらのリアルな演出に感嘆の言葉をマミヤとベラに述べていた。
本当はショーなどではなく、PCAとワルサーシヨッカーのガチのバトルなのだからリアル以外のなにものでもないのだが、一般人相手のためマミヤもベラも体のいい言葉でごまかす。

あの後、なんと同じ体を鍛える者として、一戦士として実はあのキントレスキーとなのるモヒカンヒゲのオッサンは、北斗神拳の大ファンであることがわかり、最後はなんと北斗三兄弟の手を握って頭を下げ、自分からのこのこと帰ってしまったのだ。
もらった大事なケンシロウのサインを握りしめて。
若干予想とは外れたが、厄介者を追っ払うコトができたプリキュアチームは、予定の時間より大幅に遅れてしまったが、生放送番組をあらためて開始するため、控室へ戻っているところだった。



「それでは準備ができ次第、マネージャーさんの方へ連絡を入れますので、それまでもうしばらくお待ち下さい」

ADの1人がそう言うと、控室の扉を閉めた。
ホッと一息つくPCAの少女達。
そんな中、どうにかこうにか落ち着いたメンバー達の中、今日初めてのソロ出演を控えているりんに、バットが飲み物を差し入れてにこやかに励ました。

「りんちゃん、お疲れさま。大変だったなさっきは、ケガはないかい?この後番組だけど大丈夫?」

「あ、ありがとバットさん。うん、大丈夫・・です。やるコトはキッチリやりますから」

「さっすがりんちゃん!そーじゃなくっちゃぁ〜vじゃあ、さっきの話もよろしくね♪ハイコレ!今人気のハンバーグレシピBEST10!ココにある、コレ!コレの作り方教えてぇ〜ね?いいでしょ?今度でいいから」

「え?・・あ・・さっきの・・・」

「あっちょっと美希!なに抜け駆けしてんのよ!あたしが最初に頼んだんだからあたしが優先でしょ!?ねぇ〜?りん。あたしはそんなメンドくさいのじゃなくってノーマルでいいからノーマルで!大丈夫でしょ?お願いできるわよねぇ〜?」

「ええ?いや・・あの・・・ちょっと・・あとで・・・」

「ああんっ!ズルぅ〜いなっちゃん先輩ったらぁ!すぐにそうやって自分が自分がってぇ!たまには可愛い後輩に譲ってくれたっていいじゃないのぉ」
「ダメったらダメぇ!藤Pセンパイにいいトコ見せなきゃいけないんだから!ねえりん、あたしが最初よね?」
「りんちゃんあたしだからねぇ!お願い!」
「あたし!」
「イヤ!ゼッタイにあたし!」


「オイオイ、2人とも、とりあえず冷静に・・・弱ったなあ、ハハ、りんちゃん大人気だなぁ?ええオイ。ん?」









「・・・・〜っ・・してくださぃ」

「?え?ナニ?」

バン!という大きな机を叩く音。
場にいたPCA21のメンバー全員が驚いてその音の方へと振り返った。
眼を真っ赤にしたりんが、そこに立っていた。
いつもとあきらかに違うりん。その様子にバットはマズイと反射的に感じた。



「いい加減にしてくださいっ!みんな勝手なコトばっかり言って・・・」

「ちょっ・・ちょっとぉ、りんちゃん、どーしちゃったのぉ?なんでコワイカオしてるの?」

「のぞみぃ!もともとアンタのせいだからねっ!」

「へ?あ・・あたしの・・せい?な、なにが??」

「アンタがいつもいつもドジで頼りなくって自分のコトだって満足に出来なくてあたしにアレやってコレやってなんて言うからみんな・・みんなあたしのコト雑用係みたいに思ってなんでもかんでも押し付けてくるのよ!」

「ちっ・・ちょっとりん、どうしちゃったのよ急にっ!そんな言い方ってないでしょ?」

「えりかだって、美希ちゃんだって・・・なぎさ先輩だってそうでしょ!?キチョウってナニ?しっかりものってナニ!?いい加減にしてよっ!あたしはみんなのメイドでもなんでもないんだからっっ」

「そっ・・そんなつもりで言ったんじゃ・・・ただ、アンタがいろいろ見てくれて助かるな・・って・・」

「もうヤなんです!助けにならなくたっていいっ!みんなあたしにたよんないでっ!もうウンザリなのよ!あいだって・・ゆうだって!いつもいつもあたしの気も知らないで・・・なんであのコたちの宿題の面倒とかまで見なきゃいけないの!?好きでお姉ちゃんに生まれたわけでもないのにぃっ」



まるで何かに取り憑かれたかのように、りんがそう叫び、まくし立てた。
いつもの彼女とまるで別人のような変貌ぶりに、いつも冷静なゆりやほのかまでもが、ガタッと大きな音を立てて思わず立ち上がるほど慌てた。
なぎさとりんの方へと彼女達が近寄る。


「りんさん、どうしちゃったの?何かイヤなコトでもあった?」
「いつものあなたじゃないわよ?とりあえず落ち着いて・・・」

「ほのかさんもゆりさんも!もうほっといてっ!みんなあたしの気持ちなんか誰もわかんないクセにっ!」


もう限界だった。

りんの中で張りつめていた、不安、緊張、焦り。
初めての番組主演というプレッシャーがもたらしたいろんな思いの糸が一気に音を立ててプッツンと切れたのだ。

どうしてみんなあたしにばっかり頼ってくるの?

ゆうも、あいも。

お父さんもお母さんも。

のぞみだって、えりかだって、ひびきも、ラブも、美希も、なぎさ先輩も・・・

みんな、みんな。

あたしはそんなに強い女の子じゃないのに・・・



バットが流石にコイツはヤバイと思って行動を起こそうとした時はもう遅かった。
りんは机の上にあった、飲み物を乗せる用のトレイを引っ掴むとソレをなぎさやのぞみたちのいる方向めがけて思い切り投げつけたのだ。



「バカぁーーっ!!」



そのヤケになった1投には様々な思いが凝縮されていたのだろう。
だがしかし、世の中えてしてついていないときにはついていないことが重なる物である。

りんの放ったトレイは、運動神経が抜群の彼女が放ったものにしては珍しい大暴投となり、のぞみ、なぎさのいる方向とあさってとも言っていい控室の扉の方へと唸りを上げて飛んで行った。そして・・・



「さあ、みんな準備はいいかい?そろそろ出番・・ぐあっっ!??」


ちょうどジャストのタイミングで彼女達を呼びに現れたベラ先生、その顔面に

くわぁんっ!

と乾いた音を立ててクリーンヒットしたのだ。



『〜〜〜〜〜〜っっっ!!!』
「・・・・・・」


「べっ・・ベラさん!だっ・・ダイジョウブっスかベラさん!?けっ・・ケガは!?」
「ベラ!しっかり!・・ちょっと、なんでこんなコトっ!?」

「いや・・バット、マミヤ、私なら大丈夫だ。問題ない・・・それより・・・」

顔面にトレイを直撃されたベラは眉間に手を当てたまま2、3度かぶりを振ると、ゆっくりと閉じていた眼を開いて、静かに言い放った。




「りん、何をしてる?なぜこんなものを部屋の中で放り投げている?」

「や・・・あ・・・・せっ・・んせっ・・イヤ・・だって・・・」

「説明できない・・・か。ならば奥の仮眠室でゆっくり聞いてやる、バット、マミヤ、わたしは少しりんと話をしてくる。他の子ども達をスタジオに」

「ちょっ・・まっ・・まって!あっ・・いやっきゃあっ!?」

ベラはりんに近づいてそう言うと、彼女を横抱きに抱きかかえ、他のPCAメンバー達をマミヤとバットの2人に任せてそのまま控え室奥にある仮眠室へとりんを連れて行った。
途中でりんは「イヤっイヤだっ!はなしてっ!おろしてぇっ!」と悲痛な叫びを上げたが、まったく意に介さないベラ先生はそのまま彼女とともにドアの向こうへと消えた。





「あれれオシオキかなぁ〜コレ?v」

「ってオイ、こっちのリン!なんでお前そんな楽しそうなんだよ!?」
「え?だってまた泣き顔見れるじゃないvこのコたちが叱られて泣いた時の泣き顔ってさあ、もうチョォ〜〜〜カワイイんだからぁ〜♪」
「・・・さ・・・最低な嗜好だ・・・」


「り・・・りんちゃん・・・」
「あっちゃあ・・・あ・・たしたちの・・せいなのか・・なあ?」


ベラ先生に連れていかれてりんを見て、のぞみも、なぎさも、バットも他のメンバー達も。
思い切り気の毒な顔をしていた。
ただ1人、冨永鈴だけは何やら毒舌を振り撒きながら、無邪気な笑顔を浮かべていたが・・・







「りん、何があった?」

「・・・・」

「普段しっかり者でみんなをリードしてくれるアンタがあんな行動に出るのは何か理由があったハズだ」

(・・・しっかりもの?先生まで?)

「何があったのか先生に話してくれないかい?何かワケがあったんだろ?」

仮眠室のベッドの上、座ったりんの正面に立ったベラ先生は、りんの高さまでかがんで目線を合わせると、彼女を諭すように、優しく問いかけた。
普段の彼女の性向からはあり得ない行動、気になった。だからこそ、言葉を柔らかく、努めて優しく問い質そうとした。
だが、りんの表情はどこか不貞腐れていて、仏頂面でそっぽを向いてベラの方を見ようともしなかった。

「・・・りん?」
「別に・・・先生にカンケーないですから。ただ、ムカついただけです」
「ムカついた?何に?」
「なんでもいいじゃないですか、もうほっといてくださいっ!別に理由なんてないです!」

何があったかはわからないが相当ご機嫌ナナメらしいりん。
ベラは静かにタメ息をつくと、一拍置いて決心した顔つきになり、厳しい目線でりんを再度見据えてこう言った。

「・・・そうか。じゃあとくに理由もなく、何かわからないものにムカついて、癇癪起こしてあんな危ないものを人に投げつけたんだな?この馬鹿者!そんなコトをするなどとんでもないコトだ!」

と、ベラ先生から発せられたいきなりの厳しい叱責の言葉に、りんはビクっと体を震わせた。
ここではじめて先生の顔を見る。
りんの顔が青くなった。彼女の目に映ったベラ先生の顔はいつもイタズラをしたり言いつけを破った時のプリキュアたちに見せるお怒りの表情だった。
ガタガタと震えつつも、意地になって不貞腐れた表情を変えないりんのとなりにベラは腰を下ろすと、彼女の顎をクイっと上げて自分の方を向かせて言った。

「いけないコだね、りん。いけないコは先生どうするんだった?」

「あ・・・あ・・や・・・」

「いけないコは、たっぷり叱られるんだよねぇ、先生の膝の上で!」

ベラは恐怖で硬直していたりんを自分の膝の上にうつ伏せに引き摺り倒すと、赤いシャツの背中部分をガッチリとホールドし、連動する動きで彼女の履いていたブルーデニムのスカートを捲り上げ、その下のブルーストライプのパンティも膝あたりまで下ろしてしまう。
スポーツ少女であるりんの、健康的で引き締まりながらも、まだまだ未成熟で柔らかいぷるんっとしたお尻がさらけ出された。
途端に真っ赤に顔を染めて抵抗するりん。そんな彼女を離さないベラ。


「ちょっ・・・せんせっ・・ヤメっ・・ヤダあぁっ!」
「ヤダじゃない!理由もなくあんなコトするコは、先生がたっぷりお尻ぺんぺんしてあげるからな。さあ、覚悟しなさい!」

「ヤダぁーーっっ」


暴れるりんの小さなお尻に照準を定めると、ベラはビュンっ!と唸りを上げて必殺の一撃を彼女をお尻に見舞った。

パアァーーンっ!

「っっっ〜〜〜っ!!?」

ぱしぃ〜〜んっ!

「っっ・・・・ぃぃっ・・・!!」

息を呑む声と、小さい呻き声がベラの耳に届いた。
りんの可愛い左右のお尻に打ち付けられた必殺の初弾。
衝撃が脳天をつんざき、全身を貫く。2発でツ〜〜ンと衝撃がりんの涙腺を刺激し、彼女は大粒の涙を流して声を上げずに泣いた。

他の子達ならば、この最初の2発であらん限りの絶叫を上げて泣き叫ぶだろう。
大声で泣き喚かないコトが、すでにりんの意地だった。

多少初弾よりは手加減するが、ベラは厳しい平手打ちをりんのお尻に落としていく。
右、左、真ん中。
叩かれるたびに電気ショックにあったかのようにりんの小さな体が震えた。


ぱちんっ! パチィンっ! ぺんっ! ペンっ! ぱんっ! パァンッ! パチィンっ! ぺっちんっ! ぱしぃーんっ! ぺしぃーんっ!

「うっ・・あっ・・・きゃいっ・・きゃうっ・・うっ・・・ううぅっ・・ひいぅっ・・ひいっぐっ・・・うっ・・ぅぁっ・・んんっっ!?」

「どうしてあんなことをした!?何も理由がないのにやったのか!?だとしたら許さんぞ!ちゃんと先生に理由が言えるまでお仕置き終わらないからな!?」

非情ともいえるベラの言葉、しかし、今のりんの耳に入っていたかどうか?彼女はただ雪崩のように襲い来るお尻の激痛を耐える作業で、すでにいっぱいいっぱいだった。

ばしっ! バシっ! ビシっ! びしぃっ! ぱちぃんっ! ばちぃんっ! ぴしぃっ! パシィ〜ンっ! ピシィーーっ!

「いっ・・ぃぎゃっ・・ぇぃぎゃっ・・うぅっ・・・ひあっ・・あっ・・ああぁっ・・・あうぅっ・・きゃんっ!やあぁうぅっ・・うっ・・ぐぅぅ〜〜〜・・・ぴいぃっ!?」

「何も言えないコは、先生キライだよ!ホントのトコロを・・・話してごらんなさい!」

ぱっちぃ〜〜〜んっ!

「っっ!?・・いやあぁぁ〜〜〜〜っっうわあぁ〜〜〜〜んっっ」

と、ベラがそう言って強めの平手を打ち付けた瞬間、堰を切ったかのようにりんが声を上げて泣きだした。
ベラはその様子を見ると、お尻を叩くのをやめ、優しく撫でさすりながら言葉を促した。

「りん?どうしてあんなコトしたの?先生に教えて?イイコだから」

「うっ・・えぇぇ・・だっ・・てぇ・・ひくっ・・みん・・ながぁ・・みんっ・・なしてぇ・・・あたしの・・コトぉ・・ひくっ・・シッカリモノとかいうからあっ!」

「え?どういうコトだ?」

「だっ・・て・・のぞみも・・なぎさセンパイも・・・美希ちゃんも、えりかも、ラブも・・・みんなみんな、あたしになんでも・・頼ってきて、あいだって・・ゆうだって!・・あたしの気持ちなんか・・・しらないっ・・で・・キチョウとか・・あたしはメイドでも道具でもなんでもないのに!」

「・・・・・」

「好きでお姉ちゃんに生まれたんじゃないもん!裁縫とか料理とか好きで上手になったんじゃないもん!おとーさんとおかーさんのためだったんだもん!のぞみが危なっかしくて昔っから見てられなかったんだもん!しかたなかったんだもんっ!・・なのに・・なのにぃ・・・みんなしてぇ・・・せん・・せぇまで、あたしのコト・・シッカリモノ・・とか言う・・からぁ・・」

「りん・・・」

「あ・・たし・・そんなにカンペキになんでもできない・・・学校も、部活も、プリキュアも・・いっぱいいっぱいなんだもんっ!おまけに、今日ソロで出るって聞いて・・・もう・・ど・・どーしよっ・・て・・うわぁぁ〜〜〜んっっ」

ベラは膝の上からりんを抱き起すと、胸に抱きなおして背中をトントン、と優しく叩いて、よしよしと抱きしめた。
そうだったのだ。
普段しっかり者に見えて、何でもかんでも器用にこなせる頼りになるお姉さん。
それは、本来の彼女であって彼女ではない。
自立心が強いとは言え、彼女はまだ14歳になったばかりの子どもなのだ。まだまだ親や周りに甘えたい子どもらしい欲求を持っている。
両親が忙しく、そして幼い妹弟がいる為にそれを普段表に出さない。出したくても出せないのだ。
ついつい、知らないうちに自分でも自我を心の奥底に押し込めてしまう。
眼に見えないトコロでたまりにたまったストレス。
そして、今回抜擢された初の慣れないソロ出演、その緊張もあってそれらの不満がついに爆発してしまったのだ。

ベラやマミヤたち保護者のマネージャー先生たちも、いつもの安心できる彼女のキビキビとした姿から勘違いしてしまっていた。
彼女も好き放題甘えられる、そんな時間を作ってあげるべきだった。

ベラはそれに気づくと、りんを抱きしめながら優しく言って聞かせた。


「りん、ゴメンね。先生たち、アナタは普段ホントにイイコだからついつい忘れてた。アナタも辛かったコトいっぱいあったんだよね?」

「ひくっ・・ぐすっ・・せ・・んせい?」

「気づいてあげられなくってゴメン。先生たちが悪かったね、今日は生放送もあって、はじめてソロで出演するのに・・・プレッシャーたくさんかかってたね」

「・・・・・」

「だから、そういう時は、遠慮しないで相談してくれ。先生たち、いつでも正面からどんなときも支えるから、もっとたよってくれていいんだよ?」

「・・・・いいの?」

「ああ、いいんだ。ココにいる時は、私達がアンタたちのお母さんなんだからね」

「・・あり・・がと・・・」

顔を赤くして、照れながらそんなコトを言うりんが、本当に可愛かった。
それは最近で久しぶりに見た、年相応の女の子の顔だった。
だが、悪いコトは悪いコトと正さなければならない。ベラは再び表情を変えると、りんにこう言った。

「しかしだ!あんなトレイなんて硬くて危ないものを人に向かって投げつけるなんていかなる時も許されないコトだ。それは、わかるな?」

「え?」

「今日、りんは確かに悪いコトをした。その分の罰は受けなきゃならない。それはわかるな?」

「・・・・・」

「だから、そのコトに関しては、ゴメンナサイ、ちゃんとしよう?」

言い聞かせるように落ち着いて柔らかく言った・・・ハズだったのだが、その直後りんから聞こえてきたのは、意外な答えだった。

「・・・ヤダ」

「・・・え?」

「イヤです。だって、あたし悪くないもん!みんなが悪いんだもん」

「りん、お前の気持ちはわかる。だけれども、あれが当たったらケガしたかもしれないだろ?私だったからよかったものの、人にケガさせたりするのはどんな理由があったってダメだ。その点だけは悪いコトだろ?」

「違うもん、あたし・・・あたし悪くないもん、のぞみやなぎさセンパイたちが悪いんだもん!」

と、全く納得しようとしないりん。
ココが彼女の唯一にして最大の欠点だ。彼女はいい意味でも悪い意味でも意志が強い。
頑固なのだ。
自分が悪くないと思い込んだら、例え先生の意見であろうと中々受け入れない、そう言ったところがある。
本当はもう、お終いにしようかと思っていたが、思いのほか強情なりんには、やはりもうちょっと泣いてもらうしかないようだった。



「そうか、わかった。じゃあ、そんな自分勝手なコは、まだ終わりにしてやるわけにはいかないな」

「え?ちっ・・ちょっと・・まっ待って、せんせーまってっっ・・・」

ベラは再び膝の上にうつ伏せでりんを設置すると、掌にハァ〜と息を吐きかけて威力を向上させ、もう既に真っ赤に腫れてしまっているりんのお尻に、必殺奥義を繰り出した。


「裸臀紅拳(らでんくれないけん)・奥義!紅葉吹雪(もみじふぶき)!」



説明しよう!紅葉吹雪とは!?

蘭山紅拳(らんざんくれないけん)伝承者である戸田紅羅が編み出せし悪いコ達を懲らしめる仕置き拳法、裸臀紅拳の奥義の1つである!
適度な脱力を施し手首にスナップを効かせ、平手のスピードを飛躍的に上昇させ、そのスピードとしなりによって悪い娘のお尻をスピードと手数で打ち据え、まさに地獄の激痛を与える恐ろしい必殺拳である。
この奥義を喰らった悪い娘は、まさに灼熱の衝撃と激痛に悶え泣き、苦しみ、よくよく反省できるのだ。
叩かれた後のお尻は、ベラの手形がまるで真っ赤な紅葉が吹雪のように降り注いだかのように腫れ上がり、しばらくは座ることすら痛くて苦労するというのだから想像を絶する。


「悪いコ!悪いコ!悪いコ!めっ!めっ!めっ!めっ!めーーっ!!」

スパパパパパパパパパパパパパンっっ! ぴしゃっぴしゃっ! ぴっしゃあぁーーーーんっっ!

「ぴぎゃあぁあぁ〜〜〜〜〜〜〜〜っっっっ!ぅああぁぁ〜〜〜〜〜〜〜んっいっきゃあぁぁ〜〜〜〜〜〜んっっ!!」






「うええぇぇ〜〜・・ひっく・・ぐしゅっ・・えぐっえぐっ・・ふぇぇぇ〜〜・・・いたい・・いたぁぁぃぃ〜・・お・・シリ・・いだぁぁ〜いぃ・・・いた・・いよぉぉ〜・・せ・・んせ・・の・・バカァ〜・・・びえぇぇぇ〜〜・・・ん」

「コラ、バカじゃないだろ?誰が悪いコトしたんだ?なんでこんな痛い思いしたんだ?」

「うえっ・・っぐ・・ひっく・・あた・・しが・・トレ・・イ・・投げた・・からぁぁ・・・」

「そうだな。いいかいりん、今日のアンタの気持ちは先生よくわかる。でもね、だからといってあんな危ないもの投げちゃ絶対ダメなんだよ?もしあのトレイがのぞみや友達の顔なんかにあたってケガしたら、どうする?りんだって悲しいだろ?」

お仕置きが終わった後、ベラは再び胸にりんを抱き締めて、髪やたっぷり叩いたお尻を優しく撫でてフォローしていた。
お尻はベラの手形が本当に秋の紅葉のように乱れ咲いているかのように真っ赤っかに腫れ上がっており、見るからに痛そうである。しばらくは座るのもツライだろう。
ベラの問いかけに涙に詰まりながらも、りんはコクリとうなづいた。

「わかったら、もうあんなコトしちゃダメだからな?いいな?」

「うっく・・・ハイ・・・ゴメンナ・・サイ・・・」

「うん、よしよし、イイコ」

「ひくっ・・えくっ・・せんせぇ・・・」
「ん?なんだ?」

「・・・オシリ、ナデナデしてぇ」
「フフ・・ハイハイ。今日のりんは甘えんぼさんだな」



そう言われて照れつつも最近できてなかった甘えるという行為をりんはたっぷり味わった。






〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜






「それでは発表します!節約アイデア料理部門と彼氏の心GET手作りアクセサリー部門、優勝は・・・・PCA21の夏木りんちゃんで〜〜す!おめでとうございま〜す!」

「あ、ありがとうござまーす!」

「やったあっ!りんちゃーん!」
「さっすがぁ〜v」


時間を遅れながらも何とか成功を見せた「みんなの大疑問解決!今をときめくアイドルで1番家庭的なのは誰だ!?グランプリ」は、見事、PCA21代表の夏木りんが2部門で優勝を果たすという文句の無い成績で終わることが出来た。
最初、ベラに抱っこされて泣きながら出て来たりんを見て、プロデューサーも肝を冷やしたが、しばらくして落ち着いた後のりんは司会者の受け答えも、他の女優さんやアイドルとの絡みも完璧だった。
プリキュアオールスターズ21に夏木りんというもう1人のスターがいるというコトをその場にいる全員が知ったのだった。

りんは優勝のカップと像を、審査員特別ゲストの山本ユリアから受け取り、満場のファンの拍手を一斉に受けた。
その時の彼女の輝く笑顔を、きっとマミヤやベラ、バットといったPCA21の保護者スタッフたちは忘れないだろう。


「さて、では!今日りんちゃんが作ってくれたこの簡単アイデア料理、残り物で作る簡単スパゲッティと野菜スープのメニューがなんとこのサザンクロステレビの食堂で1週間限定で売り出されまーす!その姿をもう1度視聴者の皆様にも・・・・・え?あっ・・あれええぇっっ!?」

「ん?」
「おや?」
「む?」

「あらあ!ケン!」

と、司会者の俳優がりんが作った料理が並んでいるテーブルを見て絶句した。
なんと、全く関係ない北斗三兄弟が、その料理をすでに食べつくしており、満足した表情で踏ん反り返っていたからだ。

「ちょっ・・ちょっと・・えっと?だ・・だれ?」
「ああ、サヤマさん!この人はケンシロウといってわたしの・・・」

「んなにやってんだテメーらは!?」

「え?イヤ・・コレは俺達の食料では?」
「そうそう、まかないだろ?この前りんが作ってくれたぞ?」
「ぬわははははは!小娘!中々な味だったぞ貴様をこの拳王の専属シェフとして雇ってやってもいいぞ!そしてその技術を我が覇道の為に捧げるがよいわ!」


「け・・・ケン・・」
「ドコに行ったかと思ったら・・・あんなトコロに」
「あ、でもケンたちに試食してもらえたら、視聴者の評価も上がるんじゃないかしら?」

「イヤもう試食タイム終わってんだよリン!ったくなんてコトしてくれて・・・せっかくりんちゃんが頑張ったってのに・・・」

「あ・・・あの、バットさん、あたし、もう1回つくりますよ。大丈夫ですから。そんなに難しくないし、パパッとすぐ出来ちゃうから」


そんな健気なりんちゃんの申し出に、バットは笑顔でありがとうと答えると、ケンシロウに指を突き付けて言った。


「わかった。イイだろう。この際生放送でお茶の前にお前らの痴態を知らしめてやる!オイ、ケン!」

「なんだ?バットよ!」

「りんちゃんの料理分の金、今すぐ払え」







『ゴメンナサ〜〜〜〜〜イ!!!』


北斗三兄弟の魂の号泣は、全国のお茶の間にノーカットで放映されましたとさ。







金欠で
      涙止まらぬ
              伝承者。






                   つ づ く